転機を迎えた医療・介護

深層NEWSの核心
近藤和行/玉井忠幸

 医療や介護をめぐる問題が広く関心を集めている。国家戦略から国民の生活といったレベルにいたるまで、日本の将来を大きく左右する課題をどう考えるべきか。キャスター二人が、これまでに出演したゲストの発言を踏まえて語り合った。

◆医療は成長戦略の柱

「(医療分野などでの規制緩和について)新しいことをやる時は既得権益者と必ずぶつかる。担当閣僚はリスクをとって前に出てほしい」=竹中平蔵・慶應義塾大学教授(六月二日)

近藤 医療改革はアベノミクスの成長戦略の柱の一つになっています。例えば、保険診療と保険外診療を一緒に行う「混合診療」はこれまで原則禁止でしたが、安倍政権は規制緩和をして混合診療をさらに拡充させる方針を打ち出しています。そこには、混合診療の導入で先進的な医療技術の開発などを促し、日本の医療を新たな成長産業にしよう、という狙いもあるのです。

玉井 実は、医薬品・医療機器の貿易収支をみると、日本は年間で約三兆円の赤字になっている。日本の貿易収支の赤字については、原発の再稼働が進まないため化石燃料の輸入が増えていることがよく指摘されますが、医療産業の入超もかなり大きい。
「日本版NIHには、世界的な期待があり、米英の研究責任者からも協力したいとの声が出ている」=内閣官房健康・医療戦略室の宮田俊男・戦略推進補佐官(一月二十一日)

近藤 そんな流れの中で注目されているのが、米国の国立衛生研究所(NIH)をモデルとして、来年四月に創設されることになった「日本医療研究開発機構」、通称「日本版NIH」ですね。

玉井 日本では基礎研究は進んでいるのですが、それが製薬などの実用化に結びつかず、結果として医療産業が立ち遅れている。そこで日本版NIHでは、関係する文部科学省、厚生労働省、経済産業省の研究開発予算を一括管理し、有望な分野の研究機関に優先して配分することで、基礎研究から製品化までを継続的に支援することになっています。政府としても、ようやく態勢を整えてきたようです。

近藤 縦割りの弊害は省庁別の硬直的な予算配分に現れやすい。縦割りを排した、効率的な予算配分ができれば状況は変わるかもしれない。

玉井 政府が進めている「健康・医療戦略」の構想でも、二〇二〇年までに医療機器の輸出額を一一年の五〇〇〇億円から一兆円に倍増させることになっています。「医工連携」で優れた研究成果を生かし、医療の国際競争力を高めることによって日本の成長に弾みをつけようという主張は、読売新聞も昨年五月に出した「医療改革提言」で訴えてきたところです。こうした流れは大事にしたいものです。

1  2