転機を迎えた医療・介護
◆介護制度をいかに維持するか
「介護の仕事は『家事の延長』と見られ、賃金が安く抑えられてきた。来年四月の介護報酬引き上げが必要。国民にも保険料や税の負担をお願いしなければならない」=自民党の丹羽雄哉・元厚相(五月七日)
玉井 国民の生活レベルに目を転ずると、六月の通常国会で「医療・介護総合推進法」が成立したこともあって、このところ介護をめぐる議論が注目を集めています。日本人の四人に一人は六十五歳以上の高齢者ですが、これが二〇四〇年には三人に一人になる。超高齢化社会をどう迎えるかというのは、国民にとっても大きな関心事のようです。
近藤 この法律のポイントは、支援の必要性が比較的低い人向けのサービスの一部を介護保険から外し、市町村に移管するところにあります。介護保険の財政は税金、保険料と利用者の自己負担で賄われていますが、介護費用は二〇二五年度に、現在の二倍以上の約二一兆円になると推計されており、すべてを介護保険で賄っていくのが困難なのは明らかです。各市町村では、NPOやボランティア団体と連携してサービスを補っていかねばならないでしょう。もっとも、地域によってはボランティアが少ないところもある。知恵を絞って対応しないといけない。
玉井 民主党など野党は「サービス抑制だ」などとして法案に反対しましたが、制度をどうやって維持していくかという視点も重要です。これは増え続ける医療費の問題にも通じることですが、弱者を切り捨てることなく、「良い意味での効率化」を進めていく方法を考えなければいけないでしょう。
近藤 一方では、丹羽元厚相が指摘するように、介護職の待遇をどうするかという課題も大切です。介護の職場といえば、「仕事はきつい。給料は安い」というのが通り相場。介護職の方からは「慢性的な腰痛に悩まされている」といった話もよく聞きます。ならば、「せめて待遇を」ということになるのですが、介護ではサービスに応じて報酬が決まるので、熟練度が高まっても賃金が上がらず、介護の仕事を志した人でも、将来に展望をもてずに現場を離れてしまうことが多い。仕事の性質上、「きつさ」を改善するのはなかなか難しいかもしれませんが、収入の問題は何とか手立てする必要があります。ただし、介護保険料を引き上げて賄うにも限度がある。悩ましいところです。
◆担い手は誰か
「(人口減社会への対応について)地方の拠点都市に集中投資し、地方に働く場をつくることが大事だ」=増田寛也・元総務相(五月十九日)
玉井 増田元総務相は、昨年の『中央公論』十二月号などで「これからの地方都市は人口減少により消滅する危機に瀕している」と主張し、論壇の注目を集めている時の人ですが、議論の背景には「若い人のための仕事が地方にはあまりない」という現実があります。その意味では、地方の介護産業には若者の流出を防ぐ雇用の場としての可能性もあるのではないでしょうか。もちろん、安心して働けるように、先に出た低収入の問題はぜひ解消しなければなりませんが。
近藤 介護の担い手ということでは、いったん退職したシルバー人材に、もっと介護の現場で働いてもらえないかという期待が高まっています。「リタイアしたあと、ボランティアで介護に関わっているうちに、それが生きがいになった」という話も耳にします。自分の近い将来の姿を重ね合わせてか、丁寧な対応ができる人も多いようです。
玉井 過去の放送でも、認知症や糖尿病といった健康問題を取り扱った回は、とりわけ反響が多かった。番組が、視聴者の皆さんに自らの健康や、ひいては医療や介護全体の問題を考えてもらうきっかけになればいいですね。
構成/時田英之
〔『中央公論』2014年9月号より〕