生かせるか 女性労働力

深層NEWSの核心
近藤和行/玉井忠幸

◆男性中心の企業体質に風穴

「女性の起用が進めば、職場にいろいろな考え方が持ち込まれ、イノベーション(革新)が進む」=自民党の猪口邦子・元少子化相(六月二十七日)
「女性の役員登用を増やすことは、経済全体の引き上げにつながる」=民主党の郡和子衆院議員(六月二十七日)

玉井 この問題に関して一つ注意したいのは、女性の積極的登用には、単なる「労働力不足の穴埋め」ではない、重要な意味があるということです。猪口氏が指摘するように、女性の視点が入ることで企業の側のダイバーシティ(多様性)が拡大していくと、そこから新たなビジネスチャンスが生まれることもある。それに、女性が働きやすい仕事の仕方を取り入れれば、企業も長時間労働をなくす方向に進んでいくでしょう。女性の進出で、男性も含めて全体の働き方が改善されていく可能性がある。

近藤 これまでは「男性に同化して働く」ことを余儀なくされた女性が多かった。無理に無理を重ねて働くことのできる特定の女性たちだけが、管理職や役員になって働くことができたわけです。しかし、「無理を重ねないと働けない」という働き方はおかしい。働くことと同時に日常生活を大事にする。そんな風にみんなが意識を変えていくきっかけになればいいと思いますね。

◆社会進出を阻むもの

「(政府の子育て支援策で)一番足りないのは、待機児童ゼロ対策だ。保育園に入れない子どもが二万五〇〇〇人もいる」=コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」の小室淑恵社長(一月二十四日)
「(消費税は)子育て新制度に使う。一つが待機児童の解消だ。保育園を待っている人たちの受け皿を作るのに使いたい」=森雅子少子化相(昨年十月二日)

玉井 とはいえ、女性登用のネックになっているものはまだまだ多い。とりわけ出産・育児と仕事をどう両立させていくかは大きな問題です。

近藤 子どもを育てながら働くのは難しい。だから、近くに住んでいる親に子どもを預けられるような恵まれた環境にある人は別にして、働く女性の多くは子育て中の離職を余儀なくされてきた。そうやってキャリア形成が中断されてしまうから、会社の側も女性を使いにくくなるという悪循環が生まれてしまった。

玉井 その意味で、保育所や学童保育施設の空きを待っている待機児童の問題を解消することは、働く女性を増やすためにも重要です。子どもを育てやすい環境を整えることは、人口減の一番の原因である少子化への対策にもなりますし。
近藤 これまでの日本では、どうしても「子育ては親の責任」という意識が強かった。子育てを社会全体で支えていこうという意識をもっと高めていくことが必要でしょうね。

玉井 政府も来年度から「子ども・子育て支援新制度」をスタートさせ、消費税の一〇%への増税分から、待機児童対策など子育て支援に年間七〇〇〇億円を投入していく予定です。日本の社会保障は総じて高齢者に手厚く、現役世代に薄い傾向がありますが、未来を考えると、子育て世代のための財政的な手当ても欠かせません。支援対策の今後に注目していきたいものです。

近藤 もちろん、家庭内での家事分担など、男性一人一人の意識改革も大事です。その点、今の三十代ぐらいの男性は、私たちの世代とはずいぶん考え方が変わってきているようです。こうした潮流を、女性の社会進出に着実につなげていきたいものですね。

構成/読売新聞調査研究本部 時田英之

〔『中央公論』2014年10月号より〕

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