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ウスビ・サコ✕内田樹 「ゲリラ的教育」でオンライン時代の学生に刺激を

ウスビ・サコ(京都精華大学学長)×内田 樹(神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長)×司会:小林哲夫(教育ジャーナリスト)

オンラインの意外な利点

─今後はオンライン授業一辺倒になるのか、それとも対面授業とのバランスを考えていくのでしょうか。

サコ オンラインは学習機会の提供という意味で有効であると今回、改めてわかりました。でも、北欧などと違い、日本は幼少期からのオンライン学習の文化がなく、既存の学習内容をオンラインに移行するだけにとどまっている。

 本学で内田先生もゲストに迎えている「自由論」のオンライン授業で、面白いことが起きました。途中で受講者たちを小グループに分け、議論をさせてみたのです。見知らぬ人同士なので最初の五分はみんな無言でした。自己紹介さえ固まっている。「今、電車の中だから、チャットでいい?」と言う人もいたり。でも開始二〇分後に再び各部屋を覗くと、議論が始まっていました。三〇分後にはとりまとめ役まで生まれていた。四〇分後にはちゃんと報告者が出てきたんですよ。報告は次から次へと続き、話し足りなかった人はメールで送ることに。学生たちには自分たちで工夫する力があるのだと感心しました。あらかじめ手順を決めていたら、こうはいかなかったでしょう。

内田 工夫次第で、オンラインでも対面に近い効果が上げられるということの適例ですね。今後しばらくは、パンデミックを勘定に入れて社会制度全体を設計し直す必要がある。大学はオンラインとキャンパスを同時に並走させる「ハイブリッド型」を採用することになるでしょう。

 僕が主宰する凱風館では、寺子屋ゼミと合気道を共にオンラインと対面のハイブリッド方式で開催しています。合気道は稽古の様子をZoom配信しています。ゼミのほうは、遠方で通えない人や、育児や家事で凱風館まで来られない人も視聴できるので、今期は前期の倍近い人数が受講しています。前期の中国論のゼミでは武漢在住の人が参加してくれて、中国の現状を報告してくれた。オンラインのおかげで参加者の幅が一気に広がったのはプラスでした。

 意外だったのは、合気道のほうです。武道には道場に座って、他人の稽古を見ているだけの「見取り稽古」があります。凱風館では見取り稽古も稽古日数にカウントしています。先日、久しぶりに道場に来た人が、冴えた動きをしていた。稽古記録を見たら、オンラインで三〇回見取り稽古をしていた。ただパソコンの画面を見ているだけでもこれほど上達するのかと驚きました。

サコ 大教室で行う講義で、学生同士を議論させることは通常難しい。でも今回オンラインで強制的かつランダムにグループ分けをしたところ、学部も学年もバラバラな組み合わせができた。これには面白い効果がありました。当初は我々も使いこなすだけで精一杯でしたが、工夫を重ねるうちに、オンラインならではの利点がわかってきたのです。

 問題は、文科省が現場の工夫と課題をどこまで理解しているかということです。小中高の子どもたちの発達に応じた学習段階の違いへの対応は曖昧だし、紙をすべてデジタルにすればいいと思っている方さえいるのではないか。デジタルを導入するにあたってあまりの現場感覚のなさに、愕然とします。

内田 混乱を経て、現場はオンラインの利点・欠点を理解しつつあると思います。でも、文科省は現場を知らない。対面授業を増やせというような単純な話じゃありません。

サコ いま世界全体がオンライン教育へ向かっています。国外から日本の授業を受けられるようになるということは、日本語を普及させるチャンスでもあるのです。本学では二〇二一年度入試(二〇二〇年度実施)の一部をオンライン方式にしたところ、国内外から学科によっては前年の数倍のエントリーがきています。特に増えているのは国外在住者です。事務局は嬉しい悲鳴を上げていますが、そういう「臨床経験」を繰り返しながら、教育におけるオンラインの立ち位置が確立していくのではないでしょうか。

内田 少子化局面ですから、日本の大学で教育を受けたいという外国人が増えるのはありがたいですね。

サコ いいと言えばいいのですが、「恐怖」も感じます。本学のあるコースでは三分の二が留学生で、もはや「日本人」はマイノリティ。ディスカッションでは圧倒されています。「留学生じゃなくて日本の専門家を育てたかった」と辞める教員もいました。「自分には外国文化の知識がないので、教えられない」と、教員がリーダーシップを発揮できなくなっている場面も見られる。留学生の増加で、教員はいっそうその姿勢が問われるでしょう。

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