コロナ後の「脱ミニ東京・持続可能性都市」戦略

増田寛也(東京大学公共政策大学院客員教授)×宇野重規(東京大学社会科学研究所教授)
 新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大に伴う最初の緊急事態宣言から一年が経過した。この間、インバウンドに依存していた地方の経済は脆弱さが露わとなり、かねてから指摘されていた東京一極集中のリスクとして、大地震などの自然災害に感染症が新たに加わった。こうした予測は困難だが、近い将来必ず起こると見込まれているリスクに対し、今の日本の備えは十分とは言えない。

 リスクは自然災害だけではない。日本の生産年齢人口は一九九五年をピークに、総人口は二〇〇八年をピークに減少に転じており、これから数十年は出生率が多少上昇しても、人口急減は避けられない。放置すれば、日本は厳しい労働供給力不足、消費需要不足の時代を迎えることになる。人口減少・超高齢化というゆっくりと、しかし確実に進行しているリスクをどう回避していくかは日本の最大の課題でもある。

 我々は、公益財団法人日本生産性本部に労・使・学識者の参画のもと「社会ビジョン委員会」を設置し、持続可能な国として日本を立て直すべく議論を重ね、報告書「ポストコロナの生き方、働き方を考える~誰もが自由に生き方を選択できる社会を目指して~」を取りまとめた。コロナは、多くの人々の生活に影響を与え、生き方に対する考えに変化をもたらした。こうした変化をプラスに捉え、多様化する国民の生き方に応える政策を打ち出していくことが、日本の活力再生に繋がる。本稿では、報告書をもとにこれからの日本のあり方を論じたい。

消滅可能性から持続可能性へ─ポストコロナの基本戦略

 人口減少が加速している。二〇一九年の出生数は初めて九〇万人を割り込み、八六万五二三九人となり「八六万ショック」と呼ばれた。二〇二〇年は八五万人を割り込む可能性がある。さらに、コロナ禍の影響により、二〇二一年は七〇万人台に落ち込むとの予測もある。「日本の将来推計人口」では、出生数が八〇万人を割るのは二〇三〇年と推計されており、予測が現実になれば、九年後の未来が二〇二一年に前倒しして訪れることになる。

 二〇一四年、日本創成会議が、人口の「再生産力」に着目し、二〇一〇年から二〇四〇年にかけて二十歳から三十九歳までの女性数が半減する市区町村は人口を維持していくことが難しくなることから、持続可能性の反対の意味で、これを「消滅可能性都市」と定義し、八九六市区町村が該当すると発表した。この推計では、人口の社会増減(出生数と死亡数の差ではなく、転入数と転出数の差)が地方都市の人口の推移に大きく影響しており、合計特殊出生率が比較的高い地域でも、人口の東京一極集中が進むことで、将来、都市としての機能を維持できなくなる可能性があることを明らかにし、警鐘を鳴らした。推計方法が異なるので単純に比較することはできないが、直近の推計値である「日本の地域別将来推計人口(平成三十〔二〇一八〕年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)のデータを用いて、同じ定義に従い計算すると、一七九八市区町村中、九二七市区町村が「消滅可能性都市」に該当する。二〇二〇年に行われた国勢調査の結果にもよるが、今後出生数の減少が予想されていることを踏まえると、「消滅可能性都市」がさらに増加することは確実である。

 一方、希望もある。新型コロナ感染症が流行して以降の人口の社会移動を見ると、二〇二〇年五月に東京都の人口は転出が転入を上回る「転出超過」に転じた。この傾向は、本稿執筆時点で二〇二〇年七月から八ヵ月続いている。感染リスクが高い都会を避け、地方で暮らそうとしている人が増えていることや、テレワークによってより広い住環境を求め、地方居住への志向が高まっていると考えられる。こうした動きを積極的に支援し、都会と地方の人の対流を起こすことが、地方消滅を回避することに繋がる。

 情報通信技術(ICT)の活用により、人は技術的には時間と場所に縛られることなく、働けることがわかった。住む場所も、都会か地方かの二者択一ではなく、都会と地方に半々に住むなど選択肢も広がっている。その一方で、制度や慣行がこうした生き方・働き方の多様化に追いついていない。働き方改革を進め、働き方にとどまらず暮らし方や生き方そのものの選択肢を増やすことが必要である。遅れている地方のデジタル化を進め、時間や場所に縛られず働ける生活環境の整備も必要であろう。国民のライフスタイルの地方回帰は、エネルギーの地産地消化を促進し、政府が掲げる二〇五〇年カーボンニュートラルの実現にも貢献する。働き方改革、デジタルトランスフォーメーション(DX)、そしてグリーントランスフォーメーション(GX)の三つをセットで進め、地方を「消滅可能性」から「持続可能性」へと変えることこそ、ポストコロナの日本の基本戦略になる。

1  2