関心競う経済に振り回されるメディアと私たち 鳥海不二夫

鳥海不二夫(東京大学大学院教授)
 情報があふれる時代にあって、多くの言説が飛び交う中、さまざまな新しい現象が起きている。ここではソーシャルメディアにおける「非実在型炎上」などについて取り上げ、検討する。(『中央公論』2021年7月号より抜粋)

情報過多の時代

 かつて我々は社会の未来予測、すなわち今後社会がどうなっていくのかを予測することはもちろん、社会がどうなっているのかをリアルタイムに知ることさえできなかった。そもそも存在する情報が限られていたからであり、社会の限られた一面しか知る方法が与えられていなかったためでもある。

 にもかかわらず、経済・政治などの分野を問わず「未来の予測」を行うための研究には力を注ぐ一方で、今何が起きているのかを正確に理解しようとする動きはほとんど存在しなかった。しかし、現在の状況を正しく知ることなく未来を予測できるだろうか? いや、たとえ現在を理解できたとしても、複雑系でありカオス理論に支配される我々の社会の未来を正確に予測する術は、未来永劫生み出されない可能性の方が高い。

 現在、インターネットやセンシング(センサーなどを通じての情報計測)技術の発達、モバイルツールの充実によって、我々は有史以来もっとも多くの情報に触れる機会を得たと考えられる。では、これらの情報を使えば今を正しく知ることができるようになったのだろうか。

 我々が日々触れる情報には、マスメディアなどが提供するニュースだけではない。個人によるブログやソーシャルメディア上の記事、あるいはミドルメディアと呼ばれるネットメディアなどで秒単位で生成される記事もある。

 たとえばツイッターでは、二〇一三年八月に一秒間で約一四万ものツイートが投稿された記録が残されており、YouTubeには一秒間に六・六時間分以上の動画がアップロードされているという。

 我々は従来通りのマスメディアによる情報、ネットメディアによる情報、そしてソーシャルメディアを中心に流入する社会的ネットワークに基づいて得られる情報など、まさに情報の洪水に吞まれている。これらの膨大な情報の中から「今何が起きているのか」を見つけ出すこともまた、容易ではなくなっている。

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