ダブスタ、リスク無視、女性蔑視...。コロナ五輪を「感動したからそれでいい」にしてはいけない 山口香・元日本オリンピック委員会理事が考える東京五輪の遺産と傷跡

山口香(筑波大学教授)
山口香氏
 ソウル五輪の柔道で銅メダルを獲得し、日本オリンピック委員会理事も務めてきた筑波大学教授の山口香さんが、東京五輪の問題点を総括し、その教訓を指摘する。
(『中央公論』2021年9月号より抜粋)
目次
  1. 開催の決定プロセスが曖昧なままに
  2. 異論を受け入れてこその多様性

開催の決定プロセスが曖昧なままに

 東京オリンピック・パラリンピックがスケジュール通りに行われていれば、8月8日にはオリンピックが閉幕しているはずです。本誌発売の10日を、皆さん、そして私はどのように迎えているでしょうか。7月19日の現時点で予測するには不安要素があまりに多いのですが、とにかく、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ようであってはいけないと思います。

 新型コロナウイルスの感染拡大により、昨年3月に五輪の1年延期が決定しました。その後、感染拡大の波が押し寄せるたびに「五輪は開催されるのか?」が話題となった。私の記憶では、公式見解は出ないものの、関係者からそのたびに「(2021年)3月ぐらいには開催するかを決める」という発言があったと思います。しかし結局は開催が前提となり、その可否については全く議論されないままに事は進みました。そして焦点は、有観客か無観客かに移ってしまいました。

 日本人は本来、お祭り好きでオリンピックも好きな人が多いのだと思います。にもかかわらず、今回は「中止」や「延期」を要望した人が結構な割合でいました。なぜか? 政府はコロナ対策の大部分を国民の自粛に頼ってきました。子どもの運動会まで中止をお願いしたのに、自分たちが主催する世界規模のスポーツイベントについては議論すらしない。このダブルスタンダードが不信や反発を招いたのだと思います。

 今回のオリ・パラで選手が活躍し、それに私たちが感動したとしても、パラリンピックの終了とともに、今大会の経緯を検証しなければなりません。よかったよかったと、終わらせてしまってはいけないのです。

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