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ダブスタ、リスク無視、女性蔑視...。コロナ五輪を「感動したからそれでいい」にしてはいけない 山口香・元日本オリンピック委員会理事が考える東京五輪の遺産と傷跡

山口香(筑波大学教授)

異論を受け入れてこその多様性

 2020東京大会のコンセプトの一つに「多様性と調和」が掲げられ、「あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩」することが謳われています。この言葉は、近年の自分を振り返らせてくれるものでもありました。幸か不幸か私の発言が注目を集めることとなったのは、2013年に女子柔道の強化選手がコーチ陣の暴力的な指導を告発し、彼女たちを私が支援したことでした。

 スポーツ界には長く上意下達の文化があり、指導者や先輩が間違っていても物申すのはご法度とされていました。もし暴力事件が起きたのが男子柔道であったら、問題が表面化することはなかったでしょう。しかし、女子選手には女性ならではの発想があります。「自分たちは国内を勝ち抜いたトップ選手なのだから、殴らずとも、不足があれば言葉で説明すればいい」。そう考え、告発に踏み切ったのです。私も圧倒的男社会の柔道界で生きてきましたが、不都合や意に沿わないことは、ちゃんと意見を伝えてきました。そのため、一言多い、生意気だと言われることも多くありました。

 しかし13年の告発時には、暴力追放に向けて社会が動きました。また、日本でも組織役員に女性を登用する流れになり、私は日本バレーボール協会理事や東京都教育委員会委員に登用されることに。11年に就いた日本オリンピック委員会(JOC)理事にも再任されました。

 私には男性とは違う視点や考えが求められていると理解していたので、付和雷同せず積極的に物申してきました。理事や役員の職務は、組織マネジメントのために議論することですから、それは当然のことでもあります。

 

(『中央公論』2021年9月号より抜粋)

山口香(筑波大学教授)
〔やまぐちかおり〕
1964年東京都生まれ。柔道家。84年第3回世界選手権で初優勝。88年ソウルオリンピックで銅メダル。89年筑波大学大学院修士課程修了。同年現役を引退。2011年から21年6月まで日本オリンピック委員会の理事を務める。
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