葬式は「経済」に左右される 佐藤信顕
(『中央公論』2021年11月号より抜粋)
- 健康な人でも急に逝くことは当然ある
- 葬式は「経済」に左右される
健康な人でも急に逝くことは当然ある
――日本では、いわゆる「孤独死」が増加傾向にあると言われ、社会問題視されています。佐藤さんは、葬儀に携わる仕事を長くされていますが、現状をどうご覧になっていますか。
孤独死への恐怖の大部分は、発見遅延によって部屋で一人朽ち果てていくイメージに集約されているように思います。でも、これはどうしようもない面もある。
たとえば、健康面の問題が特になさそうな親の家に、毎日電話で安否確認をしたりはしないでしょう? でも、人は突然死ぬこともあります。枕元で子どもに看取られて死にたいと思う人も多いかもしれませんが、発作を起こして急に死んでしまえば、仲のよい家族がいようがいまいが、一人で死ぬわけですからね。
――なるほど。それと同時に、孤独死を恐れる人たちの心理として、孤独に死に、かつ誰にも死後のあれこれの手配をしてもらえない、という気持ちもあると思います。
確かに。でも、まず前提としてお伝えしておきたいのが、完全に天涯孤独というケースは実際にはかなり少ないということです。疎遠になっているというだけの話で、いわゆる法的な親族に当たる、六親等内の血族や配偶者および三親等内の姻族が誰もいない、という事態はかなり稀です。
仮に一人で死んで、一見するとまわりに面倒を見る親戚などがいそうもない人でも、大半は探せば誰かしら責任を持つべき人が見つかる。結局はそこに連絡がいき、「どうしますか?」と判断を仰ぐことになります。
――極端なケースとして、本当に一人も親族のいない人が亡くなった場合、遺産や葬式などはどのような形になるのでしょうか。
ある程度の財産を持っている人であれば、後見人がいることが多いですね。その人が周囲と調整しながら、あとの始末を取り仕切ることになると思います。あるいは、それに近いケースとして、友人が後見人の役割を担ったりすることもあります。
もし、そうした人がおらず、特に遺言も残されていなければ、選任された専門の弁護士が財産の処分を任されることになるでしょう。「自分の死後のことや財産のことを勝手に決められたくない!」という方は、ある程度元気なうちに、しかるべき人にそのへんの話をしておいた方がいいと思いますよ。
――では、反対にお金がない人はどうなるでしょうか。
公費で賄うことになり、ケアワーカーや福祉関係者が、できる範囲で火葬から埋葬まで取り仕切ってくれます。生活保護などを受けている家庭も、葬祭扶助というものがあって、自治体が葬儀費用の面倒を見てくれるでしょう。
つまり、どうなってもなんとかなるので、一人で死ぬことを必要以上に怖がらないでほしいですね。