葬式は「経済」に左右される 佐藤信顕

超高齢社会の「孤独死」と弔いを問う
佐藤信顕(佐藤葬祭代表取締役)

葬式は「経済」に左右される

――少子高齢化社会が進む中で、死者を弔う葬式という儀式に、何か変化は見られますか。

 端的に言って、賑やかにやらなくなったとは言えそうです。人口動態で見ると、かつては親2人に対して、子どもが3~4人というピラミッド社会が当たり前だったわけですが、今は親2人に対して子どもが1~2人程度の逆ピラミッド社会になっています。高齢者がじわじわと増えていて、子ども世代や労働人口の数が減っている状態ですね。つまり、葬式を盛り上げる方の頭数が減ってきているので、賑やかにならないわけです。

 また、お金の問題もあります。たとえば、子どもが3人いて、それぞれが30万円ずつ出せば、簡単に90万円というまとまった金額が集まります。でも、子どもが1人しかいなかったら、すべて個人で負担しなければならない。葬式の規模が小さくなるのも当然です。

――つまり、完全に下部構造に規定されているわけですね。

 その通りです。お葬式をやるのが誰なのかを考えてみてください。生きている人ですよね。つまり、生きている人の置かれた状況に依存するわけです。

――佐藤さんの記憶では、いつ頃から葬式をめぐる状況は変わり始めたでしょうか。

 やはり、まずは1990年代のバブル崩壊で一気に変わりましたね。それから、2008年のリーマン・ショックの影響も非常に大きかった。わかりやすく社会が不景気に陥るような出来事が、葬儀を取り巻く状況にもダイレクトに影響してくるわけです。

 具体的に言えば、家族葬や、葬式を省いて火葬のみという選択をするご家族が増えた。また、景気が悪化すると、付き合いも減少します。親の弔いをする息子の友だちが減れば、自ずと参列する人も減り、葬儀の規模にも影響します。

 葬儀の形も信仰も、結局は生活の営みの中のものですから、その変化に従って変わっていくのは当然でしょう。

――そうすると、身も蓋もない言い方をすれば、やはり基本はすべて経済の話である、と。

 経済と人の数、これに尽きます。近年、「人の心が変化した」とか「宗教心がなくなった」といった話がメディアを通して盛んに吹聴されていますよね。しかし、葬儀の仕事をしている者の実感としては、そこに大きな変化はないように思えます。

――人口動態と言えば、『サザエさん』ではありませんが、かつては一つの家に複数世代が同居するかたちが当たり前のように存在しました。しかし、今は個別に分かれて住む方が一般化しています。そうした居住形態が葬儀に与える影響はありますか。

 同居していなくても、それで何か支障が出るということはないと思います。たとえば親や親族が地方にいるとして、盆暮れに帰って墓参りをするくらいの関係性が保てているならば、特に問題ないはず。裏返せば、仲が悪いと問題はいろいろと出てくるでしょう。

 あるいは、葬式に対する意識の違いも影響します。ちゃんと親を弔おうとしている子どもがいる一方で、その兄弟や姉妹が「え、そんなことしなければいけないの?」みたいな態度だったり、「なんで俺がそんな金を払わなきゃならないの?」などと言い出したりすると、まあ揉めますね。

 葬式はみんなで一緒にやるものですから、弔う側の足並みが揃わないと難航するのです。

構成:辻本力

中央公論 2021年11月号
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佐藤信顕(佐藤葬祭代表取締役)
〔さとうのぶあき〕
1976年東京都生まれ。帝京大学文学部卒業。2015年からYouTubeで「葬儀葬式ch」の配信を開始し、葬儀にまつわる多くの情報を提供。映画『おくりびと』の美術協力のほか、メディアへの出演も多数。著書に『ザ・葬儀のコツ』『遺体と火葬のほんとうの話』など。
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