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倉部史記 絶句する生徒、憤る教員

大学入試改革に翻弄される高校生と教員たち
倉部史記(高大共創コーディネーター)
 入試改革とコロナが同時に押し寄せた2021年度入学者選抜ではどのような問題が起きたのか。そして現在進行中の22年度入学者選抜に向け、高校生はどのような日々を送っているのか。高大共創コーディネーターの倉部史記さんが聞いた現場の声とは。
(『中央公論』2022年2月号より抜粋)
目次
  1. 入試の変更・中止による混乱
  2. 大学選びのリサーチが不十分に

入試の変更・中止による混乱

「せめてあと10日、早く発表できなかったものでしょうか」。2021年1月末のある日、栃木県のある公立進学校で進路指導にあたる教員は、筆者にこう漏らした。

 大学入試センター試験の内容を大きく見直す形で始まった、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)。第1回が実施されたのは21年1月16日、17日だ。その数日後である21日に国立宇都宮大学が新型コロナウイルス感染対策として、一般選抜個別学力検査(2次試験)の中止を発表した。冒頭のコメントはこの発表を受けてのものだ。

 共通テスト第1期生となるこの学年は、これまでも英語民間試験や記述式問題、e-ポートフォリオなどをめぐる高大接続改革の混乱に翻弄されてきた。その上、高校3年生の1年間をコロナ禍の中で送らざるをえなかったのだ。

 国立大学の一般選抜では、共通テストと各大学独自の2次試験、その総合評価で合否が決まる。そのため2次試験での挽回を狙う、あるいは最初から2次試験にウエートを置いた受験戦略を立てる受験生や高校もある。共通テスト終了後の発表に、「なんで今......」と絶句した生徒もいたそうだ。

 4年制大学に行きたいなら地元の国公立に、と保護者に言われている生徒は地方の公立高校に多い。コロナ禍への懸念から遠方への進学を不安視する家庭も増えている。そうした生徒たちの顔が浮かぶからこそ、現場の教員は大学の対応の遅れに怒りを覚えるのだろう。

 宇都宮大学の発表と同じ1月21日に「緊急事態宣言が延長されるなら中止する」と予告し、実際に2月3日に2学部の2次試験中止を発表したのは国立信州大学だ。共通テスト直前の1月8日に中止の発表を行った山陽小野田市立山口東京理科大学など、複数の大学が同様の発表をこの1~2月中に行った。

 個人的には、安全を最優先とした大学の判断を支持したい。不確定要素が多かった当時、各大学は個別の状況に合わせて対応を決めるほかなかった。中止も苦渋の決断であったことだろう。ただ高校側からは、時間をかけて準備をしてきたのに生徒が気の毒だ、入試に向けて積み上げてきた努力や時間を大学は理解していない、といった不満の声も上がる。

 たとえば横浜国立大学は20年8月時点で既に2次試験の中止(教育学部を除く)を打ち出し、早期から高校側の不安解消に努めていた。信州大学では2次試験を中止した学部がある一方で、同じキャンパスの別の学部では実施されているということもあった。こうした対応の差が生じた理由も大学側にはあるのだろうが、高校側はどうしても不信感を抱く。

 思い返せば、新型コロナウイルスの脅威は20年の年初に始まった。20年2月1日に指定感染症となり、感染者は大学入試の受験が不可能になった。対応は大学によってまちまちだった。試験2週間前にグループディスカッションを小論文へ変更すると発表した大学もあった。様々なリスクは受験生が背負ったのだ。それから1年もたった段階で、なぜまた重要な変更が直前に頻発するのかと高校側が憤るのは無理もない。

 21年度入学者選抜を振り返ってみよう。文部科学省が21年3月末に発表した資料によると、国公私立の大学130校以上が当該年度の入学者選抜で何らかの変更を発表している。この数字は主に1月から始まる入学者選抜のものだ。近年では、私大入学者の過半数は秋頃から始まる総合型選抜、学校推薦型選抜などで進学先を決めている。これらも含めれば変更はさらに多かったはずだ。この膨大な情報を日々追うだけでも高校側は疲弊した。

 小論文や集団面接、芸術系や体育系の実技試験など、予定されていた試験を中止した事例も少なくない。特殊な試験であるほど受験生は事前準備に多くの時間や労力を費やすため、中止による影響も大きかった。

 目立ったのは、面接試験を対面実施からオンライン実施にするという変更だ。このオンライン面接でも高校側には混乱があった。高校の端末を使い、高校と大学をオンラインで繋いで面接することを受験生へ推奨する大学が少なくなかったのだ。各受験生の自宅のネットワーク環境に差があることに加え、不正防止という観点もあっただろう。

 だが実態として、一般家庭より貧弱な環境しかない高校も未だに少なくないのだ。休日に試験を行うとなれば、情報機器に詳しい教職員は対応のために休日出勤しなくてはならない。オンライン面接対応にあたったある高校教員は、「大学側の学生募集になぜ私たちが無償で協力させられるのでしょうね」とつぶやいた。大事な生徒のためならば、と多くの高校関係者は尽力を惜しまない。だがその苦労を大学側はおそらく理解していまい。

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