森 雅子×阿部 彩 7人に1人の子どもが貧困状態。子ども支援で貧困の連鎖を断ち切れ!

森雅子(参議院議員)×阿部彩(東京都立大学教授)
阿部 彩氏×森 雅子氏
 相対的貧困率と子どもの貧困率が先進国の中でも高い日本。このコロナ禍でその数値がさらに悪くなりそうだが、どのようにしてこの問題に取り組むべきか? 森雅子・総理補佐官(女性活躍担当)と、貧困・格差研究の第一人者の阿部彩・東京都立大学教授が分析し、提言する。
(『中央公論』2022年3月号より抜粋)

子どもの貧困「ゼロ」を目指して

 2009年に日本の相対的貧困率が初めて公表されたとき、15・7%(06年)という数字にはショックを受けました。しかも子どもの貧困率は14・2%。つまり7人に1人の子どもが貧困状態にあることが明らかになったわけです(図1)。

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これが一つの契機となって、2013年に議員立法で「子どもの貧困対策法」が作られ、同時に私が子ども貧困対策の初代担当大臣を命じられました。そこでさまざまなデータを調べたら、特に母子家庭の子どもの貧困率が非常に高いことがわかりました。やはりシングルマザーの方が安定した職を得て経済的に自立していくことが、子どもの貧困をなくす上でもっとも大きなファクターなんです。以来、そのご支援になるような政策を打ち出してきました。まだ道半ばですが。

阿部 貧困・格差を研究してきた立場から見ても、2013年の立法から、特に学費面についてはものすごく進展してきたと思います。私が『子どもの貧困』を刊行したのは2008年ですが、当時は大学の学費無償化なんて夢にも思わなかった。幼児教育・保育の無償化もそうです。

 子どもの貧困率も、2012年の16・3%から2018年には13・5%まで下がりました。まだ高い数値ではありますが、減少傾向にあることはポジティブに捉えてもいいかと思います。ただ、それは主に女性の就労率の上昇によってもたらされました。今はコロナ禍によって、おそらく大きく反転しています。次に貧困率の数値が公表されるのは2023年ですが、2012年を上回ってもおかしくありません。

 ちなみに日本の格差について、所得分配の不平等さを測るジニ係数をもとに「それほど大きくない」とする議論もあります。たしかに1999年から最新値の2017年まで、課税・再分配後の可処分所得で見るジニ係数は緩やかながら減少してきました(図2)。

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しかし、ジニ係数は中間層と高所得者層との格差を見るもので、貧困率は最低限度の生活さえできない人の割合です。より注視すべきなのは貧困率だと思います。

 日本の場合、国民の29%が65歳以上の高齢者で、その経済状態によって貧困率もジニ係数も少なからず影響を受けます。特にジニ係数の低下は、高齢者の公的年金の所得が増加し、男性に限ってではありますが貧困率が大きく減少したことが寄与したと考えられます。ただし、女性高齢者の貧困率はそれほど減少していません。また、子どもの貧困率も2012年からは改善していますが、1980年代に比べると高いです。

 重要なのは、当の子どもたちがどう感じているかですよね。日本が「以前と比べて」「世界と比べて」どうだという話は、今生きている子どもには関係ない。つらい思いをしていないか、人生に失望していないかが一番大事。そういう子どもをゼロにすることが、大人の責任です。

阿部 おっしゃるとおりです。子どもの貧困対策はなされてきているものの、貧困家庭の子どもの生活面の支援は、実はあまり進展がありません。コロナ禍で初めて注目されましたが、家賃や光熱費が払えないといった問題はコロナ以前からありました。学費支援だけでは子どもの貧困対策にはならないのです。生活面との両輪で支援が必要なんですね。

 もう一つ挙げるなら、人の温かさが直接伝わるような支援があればもっといい。私自身、子ども時代は貧困家庭で育ちました。両親も貧困家庭で育ち、家計を支えるために中学を卒業してすぐに働いています。特に父は母子家庭の長男で、自分の母親と4人の弟妹を養う必要がありました。結婚後も生活費を削って弟妹の学費を払い続け、大学まで行かせたので、自身の家庭はずっと貧しいまま。私が生まれたときからずっとギリギリの生活でした。しかも私が中学生のとき、父は消費者被害に遭います。連帯保証人になって騙され、何千万円という借金を押し付けられたのです。ただでさえ少ない給料が差し押さえられるだけではなく、違法な取り立て屋が毎日のように家に押しかけてきました。家族は家の中に閉じこもるしかなく、私もずっと学校に行けなかったのです。

 そこに、二人の大人が現れます。一人は中学校の担任の先生。登校できない私を気にかけて何度も家庭訪問をし、登校できる道を開いてくださった。もう一人は弁護士の先生。まったく無償で取り立て屋を追い払ってくださった。おかげで、ようやく平穏な生活に戻れたのです。

 この出会いが、私の将来を大きく変えました。両親と同様、中学を卒業したら家計を助けるために就職するつもりだったのですが、お二人の説得で高校に行くことになりました。またそれまで「弁護士」という職業すら知らなかったのですが、その姿を目の当たりにして憧れ、私も勉強して目指そうと思うようになります。弱い人のために戦う人間になりたいと。政治の世界に入ってからも、その気持ちは変わっていません。

構成:島田栄昭

(『中央公論』2022年3月号より抜粋)

中央公論 2022年3月号
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森雅子(参議院議員)×阿部彩(東京都立大学教授)
◆森雅子〔もりまさこ〕
1964年福島県生まれ。88年に東北大学を卒業し95年に弁護士登録。2007年の参議院議員選挙で自由民主党より出馬し初当選。当選3回。少子化対策担当大臣、法務大臣などを歴任し、現在は内閣総理大臣補佐官(女性活躍担当)を務める。

◆阿部彩〔あべあや〕
マサチューセッツ工科大学卒業。タフツ大学フレッチャー法律外交大学院で修士号、博士号取得。国際連合、国立社会保障・人口問題研究所などを経て2015年より現職。子ども・若者貧困研究センター長も兼務。『子どもの貧困』など著書多数。
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