メン獄 「会社のお医者さん」の喜怒哀楽とやりがい
(『中央公論』2023年10月号より抜粋)
- クライアントとの微妙な距離感
- 魔法の鏡の役割をめざして
クライアントとの微妙な距離感
──「コンサルタント」と言っても業務はさまざまで、具体的なイメージが湧かない人も多いと思います。メン獄さんは異業種の人から「コンサルって、どういう仕事ですか?」と聞かれてなんと答えていますか。
学生向けの就職説明会などでは「会社のお医者さんのようなもの」と説明していました。要はクライアント企業の困り事に対して、なぜそんなことが起こっているのかを考え、「こういう解決策がありますよ」と提案をする。その具体的な内容はおっしゃる通り多岐にわたっていて、マーケティング、経理、人事、営業、物流など、クライアントのどの部門に対してサービスを提供するかにより異なります。
──著書『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』には「現場からは嫌われる」といった記述もありましたが......。
一般的には、嫌われますよ。「業務統制」の文脈で仕事を受注することが多くて、僕が在籍していたコンサル会社も、経営側の人間が現場を管理しやすくするための業務設計や組織改編などを得意分野としていたんです。でも統制って、される側にとっては面倒なんですよ。提出する書類が増えたり、勤怠管理を徹底したり、品質チェックの手順を見直したり、システムを入れ替えたり......。
現場の人からすれば、従来のやり方で回っているので、わざわざ変える必要がない。しかも、それが経営側の都合で一方的に行われるとなると、「また現場の意見も聞かずに勝手なことしやがって」という反発は生じます。ただ、中央が強権的に統制するようなやり方は、社内のパワーバランスとして現場が強いクライアントの場合うまくいかないこともよくあって、最近は、中央と現場の間をうまく取り持つような形でお金をいただくケースが多いです。
そういう意味では、コンサルが潤滑油に近い存在になるケースも増えています。社内の部署間の衝突が起こらないように、部署と部署の間に入り込んでいく。そうすると、クライアントはコンサルを簡単に切れなくなる。もはやコンサルがその会社における情報のハブになっているので、何かあれば「どうすればいいですかね?」と逐一聞かれる立場になるんです。僕らも企業なので、安定した収益は欲しい。なるべく長くお付き合いいただける関係性を構築したいので、それを狙って営業しているというのが本音なのですが、それがクライアントにとって最適な状態なのかというと......議論の余地があるとは思っています。
──クライアントがコンサルに依存してしまうわけですね。
去年、吉野家の常務取締役が自社のマーケティングについて、知らぬ間に相手をどっぷり依存させる「生娘をシャブ漬け戦略」と表現して批判を浴びていましたが、シャブ漬け戦略という言い方自体は業界を問わずに昔からありました。でも、本当にクライアントのためを思うなら、コンサルに依存し続ける状態ではいけない。どこかでクライアント自身が僕らのノウハウを引き継いで、それに合わせて僕らも規模を縮小して、最終的には「完治しましたね」とクライアントに自立してもらって立ち去るべき時もあるんです。
嫌な言い方をすると、自分で頭を使わないクライアントのほうが、コンサル会社としては短期的には利益が上がるんですよ。ただ、それだと焼畑農業みたいになってしまうので、昨今は例えばジョイント・ベンチャー(合弁企業)を立ち上げるなどして、クライアントとより持続可能な経済圏を一緒に作っていくような新しい試みも増えてきています。