メン獄 「会社のお医者さん」の喜怒哀楽とやりがい
魔法の鏡の役割をめざして
──「コンサルは会社のお医者さん」とのお話がありましたが、著書の中ではバリュー(付加価値)を提供することがコンサルの仕事だと書かれていました。メン獄さんが考える、最も大きな価値とは何ですか。
めちゃくちゃ難しい質問ですね。個人的な意見ですが、最大の価値は、クライアントが自分で考えるヒントを与えることでしょうか。経営者って、ものすごく孤独なんですよ。周りはイエスマンが多くて意見を通すことは簡単ですが、その経営者が優秀であればあるほど、「本当に自分の言っていることは正しいのか?」といった恐怖と常に闘っていると思うんです。そういう経営者に対して、僕は『白雪姫』に出てくる、真実を伝えてしまう魔法の鏡みたいな存在でありたいんですよ。つまり「私は正しいですか?」と問われた時に、「概ね正しいと思います。ただし、こういう可能性もあります」と、ちゃんと真実を伝えたい。それをやめたらコンサルではなくなるので、結局それに尽きますね。
社内でも「クライアントがそう言ってたんで」などと報告すると怒られるんです。「で、お前は本当にそれでいいと思ってるの?」「クライアントの言う通りにしてお金をもらえるんだったら、僕らの仕事ってなんなの?」と。なので、クライアントの言い分が本当に正しいのかを真剣に考えられるか、どれだけ質のいいオルタナティブ(代案)を出してあげられるか、それが僕らの仕事の本質ではないかと思います。
──「魔法の鏡」というのは、面白い喩えですね。
相手を映すだけでなく、広角であることが大事だと思います。別の可能性を示してあげると、クライアントも「確かに、そっちもあるね」と喜ぶというか、楽しそうにしてくれるんです。いくつかある可能性の中でも、僕はウルトラCが好きなんですよ。例えばある問題の解決策として、順当なA案、3分考えれば出てくるB案、社内で十分に揉んだC案を出したうえで、「すべての前提をひっくり返したウルトラCがこちらになります」と。あまりにも極端で、場合によっては身を切る覚悟が必要かもしれないけれど、ありといえばあり。そんな可能性の話をするのが僕は大好きですね。
(続きは『中央公論』2023年10月号で)
構成:須藤 輝
1986年千葉県生まれ。上智大学法学部卒業後、2009年に外資系大手コンサルティング会社に入社。21年に退社後、医療業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進をめざすスタートアップ企業に、DXコンサルタントとして就職。著書に『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』がある。