管理職はなぜ「罰ゲーム」になったか

小林祐児(パーソル総合研究所上席主任研究員)

罰ゲーム化の外部要因

 まずは、社会経済的なマクロ・トレンドから整理しよう。これらはつまり企業の「外」の要因だ。


①組織のフラット化とプレイング・マネジャー化の進行

 バブル崩壊後、成果主義傾向を強めた日本企業が行った施策に、「組織のフラット化」がある。これはつまりピラミッド型組織を平らにし、階層を減らすことによって意思決定を早くしよう、というものだ。階層と同時に管理職ポストは減り、1人当たりの部下の人数は増える。部下のマネジメント業務だけでなく、数字責任も持ち、第一線のプレイヤーとして現場に出て汗をかく、いわゆる「プレイング・マネジャー化」の進行が進む。


②ダイバーシティとハラスメント防止の機運

 女性活躍やダイバーシティの推進によって、職場人員の多様性が大きく向上した。それは男性正社員を中心とした職場づくりから、シニア・外国人・女性・非正規雇用といった様々な属性が混じり合った職場を運営していくというマネジメントの高度化と複雑化を招いた。

 そこに、2020年6月より改正労働施策総合推進法、通称「パワハラ防止法」が施行され、職場内のパワーハラスメントを防止する規定が明記された。経済のグローバル化とともに、企業のコンプライアンス順守が厳しく求められていく中で、ハラスメント・リスクを冒さないことが管理職の絶対的な指針となった。

 これにより現場管理職は、コミュニケーションを過剰に「回避」するようになった。私たちの調査でも、今や飲み会はおろか部下をランチにも誘えない、ネガティブなフィードバックはできない、必要以上にコミュニケーションをとらないといった上司が6〜7割存在する。そうした状況は多様な職場をマネジメントする難易度をさらに上げる。


③働き方改革の二重の矮小化

 ダメ押しとなったのが、第4次安倍内閣がスタートさせた働き方改革だ。この時、管理職も働き方が変われば良かったのだが、事態は全く逆の結果を招いた。

 19年4月1日から大企業を対象に先んじて施行された時間外労働の上限規制により、働き方改革は「働く時間」改革になり、多くの企業で単なる「労働時間上限設定への対応」へと矮小化された。そして働く時間改革は、労働時間管理の対象である「メンバー層」に限定され、残業手当の付かない管理職は、働き方改革の中で「優先順位の低い」位置に置かれた。

 この「二重の矮小化」は、筆者が知る限りほとんどの企業で起こった。その結果、メンバーを時間厳守で早く帰らせる分、管理職が残った仕事を引き取るという状況が日本中で常態化したのだ。

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