管理職はなぜ「罰ゲーム」になったか

小林祐児(パーソル総合研究所上席主任研究員)

内部要因

 今簡単に整理した外部要因は、マクロな社会変動であり、少し歴史をさかのぼれば簡単にわかることである。問題は、管理職負荷を上げるメカニズムは企業の「内部」にもあり、それに当事者が気付いていないことだ。このことが管理職問題の傷口を大きく広げる原因になっている。こちらも三つに絞って整理しよう。


①管理部門と現場のすれ違い

 人事部が管理職の課題をどう認識しているのか、また、それが管理職自身の認識と合っているのかについて調べると、完全な「現場と人事のすれ違い」が鮮明になる。

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 の右側は、人事部が考えている管理職の課題だ。上位には、「働き方改革への対応の増加」「ハラスメント対応の増加」「コンプライアンス対応の増加」といった、近年の新しい組織課題が並ぶ。一方、左側の管理職自身が感じている課題では、「人手不足」「後任者の不在」「自身の業務量の増加」が上位にくる。

 このように、管理職自身が抱えている課題と、会社が管理職に対して持っている認識は大きく食い違う。だからこそ管理職からは、「会社には期待していない」「人事は何もわかっていない」といった会社側への不満が出てくる一方で、会社の管理部門からは「現場はいつも人が足りないと言うものだ」といった言葉が聞こえてくる。


②「筋トレ発想」の研修

 このすれ違いに拍車をかけるのが、経営や管理部門が持つ「筋トレ発想」だ。筋トレ発想とは、管理職個人の意欲やスキルを鍛えることで、この高い負荷という困難を乗り越えさせようとする考えだ。

 働き方改革、ハラスメント、ダイバーシティ、対話的なマネジメント─新しいトレンドが出てくるたびに、管理職への研修だけが改定され、増え続ける。時代の変化に合わせて、管理職自身のスキルやマインドセットを「鍛え上げる」ことに躍起になり、それが前例となって、数十年も無自覚に踏襲している企業ばかりだ。

 さらに最新の流行テーマは、「人的資本経営」だろう。


(『中央公論』4月号では、この後も、罰ゲーム化を修正する四つの方法について詳しく論じている。)

中央公論 2025年4月号
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小林祐児(パーソル総合研究所上席主任研究員)
〔こばやしゆうじ〕
1983年福岡県生まれ。上智大学大学院総合人間科学研究科博士前期課程修了。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。『早期退職時代のサバイバル術』『リスキリングは経営課題』『罰ゲーム化する管理職』など著書多数。
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