誰のための授業料無償化か

小林哲夫(教育ジャーナリスト)

公立と私立の違い

 無償化によって公立私立の差はなくなるといわれるが、そんなことはない。

 高校教育のあり方に詳しい、『月刊高校教育』(学事出版)編集者の二井豪(ふたいごう)さんは、無償化という呼び方に現実の政策とのギャップがあることを懸念する。

「無償化という言葉はマジックのように心地よく響いてしまい、すばらしい政策だと受け止められますが、私立も公立も学費がみんな同じようにタダになるというわけではありません。私立の場合、施設設備費、授業料予備費、教材費などが結構かかるので負担は小さくない。私立に通ったほうが得をするという単純な話にはなりません。良心的な私立は、無償化といっても「学費はこれだけかかります」と伝えていますが、親がそれを読むとは限らないのです。もちろん、今回の無償化政策で私立の授業料も支援されることには意味があります。地域によっては、私立が公立に行けない生徒さんの受け皿となっているところもあり、そうした生徒にとってはありがたい話ですから」

 そもそも公立と私立は、公教育という意味では役割は同じだが、学校の成り立ちが根本的に違うので、性格、目的は大きく異なる。たとえば公立では、特定の宗教のための宗教教育はできない。私立は経営者の一声で教育方針をいくらでも変えられる。野球強豪校にするか、特進コースを作って進学校化するかなどだ。


 二井さんは簡潔に説明する。

「公立はそこに子どもがいれば学校を作る、いわば地域に根ざした存在です。私立は教育理念や目標を掲げて個人、法人、団体が設立し、どこにでも作れる、いきなり移転できる、突然廃校できるわけです。公立はそこに生徒がいる以上、やめることはできません。地域を成り立たせるために、なくてはならない存在だからです。これは良し悪しの問題ではなく、役割分担といえます。

 このような違いを考えないで、公立と私立とを無償化で競争させるのはどうでしょうか。特徴を出せない公立高校は、いま疲れています。最近では自治体が財政上の問題を理由に高校を統廃合させるケースも増えました。地域の人にすれば行き場がなくなります」

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