誰のための授業料無償化か
公立校の反応
高校は無償化をどのように受け止めているか。そして、自ら選ばれる学校としてどのように努力をし、学校をアピールしているか。
千葉県の進学校4校(公立2校、私立2校)をたずねた。
県立千葉中学校・千葉高校の髙梨祐介校長は次のように話す。
「わが校は、「重厚な教養主義」を掲げており、全人格的に優れた人物の育成を目指しています。授業は文系理系にとらわれず、大学受験に特化していません。将来、さまざまな分野で活躍する生徒の育成のためにレベルの高い授業を展開しています。部活や学校行事は生徒たちが企画するなど、自分でやりたいことを反映できる学校です。こうした教育内容をもっと積極的に発信し、受験生から選ばれるようにしたいですね」
公立高校は所管する教育委員会から、難関大学合格者の数値目標を求められることがある。「旧帝国大学○○人」「国公立大学医学部△△人」などだ。だが、千葉高校はこうした目標を立てていない。髙梨さんが続ける。
「進学先はあくまでも生徒が主体的に選ぶという考え方です。潜在能力の高い生徒が集まっており、さまざまな教育を行ってもっと働きかけ、その能力を高める取り組みを行っていきたいと思います」
県立東葛飾高等学校(東葛(とうかつ))は「自主自律」を校是として、「学力」「教養」「人間力」を培うことを教育目標として掲げている。校則は緩やかで自由度が高く、県内の全日制高校では唯一制服の指定がない。同校の稲川一男校長をたずねた。
「生徒の自主性を大事にしており、自分で何かやりたいことがある人はよりたくさんのことを学べる場です。先生から「これをやりなさい」といわれるほうがいいという生徒は戸惑うかもしれません」
無償化でどのような教育内容に注目してほしいか。課題はあるのか。
「1970年代前半の教育改革運動で生徒から提案された自由研究は今日まで続いており、好きなテーマを徹底的に調べるなど探究的学習の先駆けといえます。無償化で学校の選択肢が広がるにあたって、東葛のこうした校風を見ていただきたい。ただ、うちに限らず公立は校舎の老朽化という課題があります。施設をきれいに整備してほしいですね」
東葛は公立高校としては全国的にめずらしい医歯薬コースがあり、地元の柏市医師会が全面的に支援している。
2025年度入試の東葛の志願倍率は2.17倍で、県立高校としては一番高かった。
(『中央公論』6月号では、この後も無償化を歓迎できない私立高校とその理由、公立校に待つ試練、専門高校の行く末について詳しく論じている。)
1960年神奈川県生まれ。教育、社会問題を中心に執筆。94年より『大学ランキング』の編集に携わる。『高校紛争1969-1970』『ニッポンの大学』『学校制服とは何か』『「旧制第一中学」の面目』『改訂版 東大合格高校盛衰史』『筑駒の研究』など著書多数。