健康系にも進出
――健康を志向する◯活についてはいかがでしょうか。最近は腸活がクローズアップされています。
石原 腸については今まであまり注目されていなかったので、盲点だったんじゃないんですかね。
辛酸 腸は人間の受精卵が分裂していく過程で最初にできる臓器ですし、腸に意識があるみたいな話もあります。
石原 身体に関するブームでは、これまでに心理や脳がありましたが、それらは結局、自分の意思ではどうにもならないと気づくと思うんですね。どんなに心の持ち方を変えようとしても変えられるわけではないし、脳を鍛えようとしても簡単にできるものではない。腸にはまだ努力の余地がある。頑張れば何とかなるんじゃないかと夢を持たせてくれるところがあるんじゃないでしょうか。
辛酸 免疫力にも腸内細菌が深く関わっているんですよね。コロナもあって、腸により注目が集まったのかもしれません。
――腸活の本を読むと、肩こりや腰痛、睡眠不足なども腸内環境と関わりがあるので、腸を鍛えればすべて解決できるみたいなことが書かれています。
石原 腸に頑張ってもらえばすべてがうまくいくんじゃないかとか、当てにしているところはありますよね。腸内環境が整えばモテモテになるってこともあるのかな。
辛酸 肌がきれいになるからモテるかもしれませんよ。
石原 何より、腸って手を付けやすいんです。乳酸菌飲料を飲んで腸内環境を整えて、いいウンチが出ればいいわけだから結果もわかりやすい。みなさん、達成感についてちょっと貪欲すぎるんじゃないかとも思います。達成感の飢餓状態にあるんじゃないのかな。あとは、健康系の◯活は、商売につなげようとする気配を感じるものが多くあります。
辛酸 腸活もそうですし、菌活なんて言葉もあります。
石原 何か栄養食品を売りたいんじゃないかっていうね。「健康になるため、キレイになるために努力しましょう」と言ってしまうと身も蓋もないので、◯活と言うことでハードルを低くしている感じがします。
辛酸 「自分も何かやらなきゃ」と思わせる言葉の力はありますね。
(『中央公論』2024年2月号より抜粋)
構成:鴇田義晴
1963年三重県生まれ。埼玉大学卒業。93年に『大人養成講座』でデビュー、本作はベストセラーに。『大人力検定』『大人の言葉の選び方』『オトナ女子の文章作法』『失礼な一言』など著書多数。
◆辛酸なめ子〔しんさんなめこ〕
1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒業。『スピリチュアル系のトリセツ』『女子校礼賛』『新・人間関係のルール』『辛酸なめ子の独断! 流行大全』『辛酸なめ子、スピ旅に出る』など著書多数。