安東能明 静岡県で冤罪事件が多発したのはなぜか。その背景にいた『昭和の拷問王』の正体に迫る

『蚕の王』著者、安東能明氏インタビュー
安東能明
ある時期、静岡県で冤罪事件が量産された。その背景にいた『昭和の拷問王』とはどんな人物だったのか? 写真提供:写真AC
昭和25年、静岡県二俣町(現・浜松市天竜区)にて発生した一家殺害事件、「二俣事件」。当時18歳の少年が容疑者として逮捕されたが、裁判では一貫して無罪を主張。1・2審で死刑判決がくだったものの、最高裁で判決が覆り逆転無罪となった日本初の冤罪事件である。安東能明・著『蚕の王』はこの事件を題材に、警察・司法の闇に踏み込んだ事実に基づく小説だ。事件発生日と同じく雪の降りしきる日、著者から話を聞いた。

――「二俣事件」を題材にしたきっかけを教えてください。

私は18歳まで二俣町に住んでおり、父が若い頃、事件発生の翌日に事件現場を通りかかり、血の臭いを嗅いだという体験をよく聞かされていました。

いつかこのことを小説にすることになるかもしれないと思っていましたが、実際に書こうと思ったのは数年前のことです。墓参りの帰りに立ち寄った旧友の家で、二俣事件の捜査に加わった刑事が自費出版したという手記を読ませてもらったことがきっかけでした。

「昭和の拷問王」と呼ばれた警察官・紅林麻雄が行った犯人捏造の告発があり、非常に興味深く思いました。実際に紅林が犯人に仕立て上げた青年は、後に最高裁で死刑判決が覆ったことで冤罪が証明されます。

一方、手記の中で、事件の真犯人と目される人物が名指しされているのですが、こちらの記述には多くの疑問が残りました。この手記は新聞やテレビでも何度も取り上げられているのですが、もしかしたら新たな冤罪を生んでいるのではないかと思い、自分なりに調べてみようと思ったのが執筆のきっかけでした。

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