鴇田義晴 「別冊宝島」「Talking Loft」「文藝別冊」......ムックに刻印された90年代文化

鴇田義晴(フリーライター)

カルチャーを概観する企み

 90年代に限らずサブカルチャーは出版、音楽、映画と多分野にわたり情報量が多い。それを概観する試みが、97年11月発行の『オルタカルチャー日本版』(発行=メディアワークス、発売=主婦の友社)だ。イギリスとアメリカで先に発売されていた同名の書籍にコンセプトを得た日本版であり、オルタブックスの最初の一冊として発行された。

 本書は90年代サブカルチャーの項目が600ほど取り上げられた事典だ。タレント、映画監督、ミュージシャン、小説家などの人名、テレビやラジオ番組、さらに「悪趣味雑誌」「援助交際というムーブメント」「たまごっち」といった90年代を象徴する内容もフォローしている。これらの項目が50音順にフラットに並ぶ。

 特記すべきは、全文がインターネットで公開された点だろう。現在もウェブページは閲覧可能だ(※2)。各項目にはWikipediaのようにハイパーリンクが張られ、関連するトピックを参照できる。この時期、一般家庭のネット接続率は1割ほど。ネットに書籍と同じ内容を公開してもさほど問題はなかったのだろう。

 さらに各項目の執筆者は文末には記されず、巻末の著者索引で確認する形式を取る。音楽のジャンルである「テクノ」の執筆者は専門雑誌『ele-king』(エレ・メンツ)の編集長を務めた野田努(つとむ)であり、「依存症」「自助グループ」といった項目は精神科医の春日武彦が記す。ほかにも阿部和重、筒井康隆、中上健次といった文学に関わる項目は、美術評論家の椹木野衣(さわらぎのい)が書いている。項目、執筆者ともにメジャーとマイナーが等価に並び、混ざり合うのが本書の特徴であり、半匿名性を帯びた編集姿勢は、インターネットの世界観に準じたものと言える。

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