鴇田義晴 「別冊宝島」「Talking Loft」「文藝別冊」......ムックに刻印された90年代文化
鴇田義晴(フリーライター)
ロフトプラスワンの挑戦と記録
97年3月発行の『TALKING LOFT』(ロフト出版)に始まるムックシリーズも90年代のワンシーンを記録している。本書には平野悠が席亭を務める新宿のトークライブハウス、ロフトプラスワンで行われたイベントの様子が書き起こしトークとしてまとめられている。
ロフトプラスワンの名物は、トークの終盤に観客にマイクが回され生じる一日店長(出演者)との生のやりとりだ。VOL.2には2012年に亡くなった映画監督の若松孝二と崔(さい)洋一の出演回が収録されている。「若松映画はポルノとしては期待はずれ」といった質問を行う客に、崔が「お前さあ、つまんないよ。言ってることが、全然(会場笑)」と切り返す。この後も「映画をどういう視点で見ればいいのか」と問う客に、若松は「映画館っていうのは自分一人になれるじゃん。真っ暗い中でさ、画面とケンカできるじゃない。自分の頭と心で。これが映画だよね」と語りかける。テキストからでも熱を帯びた議論が伝わってくる。
コロナ禍以降、イベントの配信はメジャーなものになったが、言うまでもなく90年代はネットの配信環境も整っていないため、ライブに参加したければ現場に赴く必要があった。ロフトプラスワンは東京でしか体験できないものだった。ライブの臨場感をそのまま紙媒体に落とし込んだムックとして『TALKING LOFT』は90年代の貴重な記録と言えるだろう。