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寺西ジャジューカ お笑い界の競技化がもたらしたもの――芸人にとって歓迎すべき状況か否か

寺西ジャジューカ(フリーライター)

笑いの分析を生業にする芸人

 M-1放送後、芸人はこぞってYouTubeに解説動画を上げるようになった。笑いの分析を生業にする芸人が出てきたのは、笑いの競技化の副産物という印象。漫才コンビ、平成ノブシコブシの徳井健太や、馬鹿よ貴方はの新道竜巳(しんどうたつみ)などだ。面白い現象だと思う。M-1の審査員を務める塙や、過去にM-1を制したNONSTYLEの石田明らも鋭い分析で知られるが、彼らとは違い、特にノブコブは賞レースで結果を残したことがない。さらに、徳井はコンビでネタを書く側でもないのだ。なのに、彼はお笑い論で脚光を浴びた。『現代落語論』を上梓した立川談志や、ビートたけしなどトッププレーヤーが評論する文化は古くから存在したが、今は中堅以下の芸人も臆せず批評する。この風潮に警鐘を鳴らしたのはケンドーコバヤシだ。

「いよいよお笑い芸人側が、お笑い論を語る時代になってきました。人気番組も今そういうものが多いじゃないですか。"芸人としての心構え"とかそういうのを語る番組が。「あ、これはもう近々破滅するな」と思っています。それは過去の色んなエンターテインメントの歴史が証明しています。(中略)プロレス界が一回破滅する直前に、前田日明(あきら)さん(元プロレスラー。現THE OUTSIDERプロデューサー)とかがやり始めたのがプロレスや格闘技を語ること。あれが発端でした。それと今のお笑い界が非常に似ています。正直、本当に俺はビビっています」(「マイナビニュース」2021年8月21日)

 どこまでが本気でどこまでが冗談なのかはわからないが、彼の見解は腑に落ちる部分も多い。「アメトーーク!」(テレビ朝日)の人気企画「芸人ドラフト会議」や「ゴッドタン」(テレビ東京)の「お笑いを存分に語れるBAR」、「あちこちオードリー」(テレビ東京)など、漫才やコントに限らず、バラエティでのトークや裏回し(MC以外の者がツッコミや言葉の補充で場を整理し、進行をサポートする技術)を解説する企画が世に溢れる昨今。有能な芸人を分析し、手の内を語るエンタメはある意味、今のトレンドだ。

 さらに、その手の番組の趣旨は「分析する」から「褒め殺しにする」へフェーズが変わってきた。芸人らが集い、「この芸人のここがスゴい」と発表し合う語らい。読売テレビ「上沼・高田のクギズケ!」(19年7月21日放送)で上沼恵美子は、芸人が助け合う風潮について「みんなでスクラム組んで「おもろないことしよな」ってやってるんやろ」と喝破したが、芸人が芸人を語る流れは上沼が言うところの"おもんなスクラム"(ヨイショするための談義)を誘発している気がする。

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