真鍋公希 『シン・ウルトラマン』は何を継承したのか

真鍋公希(関西国際大学講師)

「サービスシーン」の系譜

 好意的な批評が中心だった印象のある『シン・ゴジラ』に対して、SNSの投稿やブログ記事を見る限り、『シン・ウルトラマン』については批判的な感想も少なくないようである。原因はさまざまあろうが、その一つは、ヒロイン浅見弘子をめぐるセクハラ描写にある。指摘されている問題点は、以下の三つにまとめられる。


①浅見には気合を入れる際に臀部を叩く癖があり、その際に彼女の臀部がクロースアップで映される。また、劇中には自身だけでなく船縁(早見あかり)や神永(斎藤工)の臀部を叩くシーンもある。

②メフィラスによって浅見が巨大化される場面では、彼女を足元から見上げたショットや彼女がビルを蹴ろうとするショットで、スカートの中が見えそうになる。

③浅見が神永に体臭を嗅がれるシーンが執拗に描かれている。

 これらの演出・設定は、22年に封切られた作品としては明らかに時代錯誤なものといえるだろう。

 このうち、①と③は本作独自の設定であるのに対し、②は『ウルトラマン』の第33話「禁じられた言葉」へのオマージュとなっており、この場面を構成するショットには類似するものも多い。だが、本作で問題となっている足元から見上げるアングルやビルを蹴ろうとするショットは、旧作には存在しない。さらに、旧作ではパンツスタイルだった女性隊員の服装が、本作ではスカートスーツに変更されている。この二つの変更によって、当該場面には、旧作にはなかった性的なニュアンスが付け足されている。

 こうした演出は、黄金時代の特撮映画にしばしば登場する、主に男性の観客に向けられた「サービスシーン」の現代版といえる。その典型は、主演女優の入浴場面である。たとえば、1957年公開の『地球防衛軍』では白川由美の、62年公開の『妖星ゴラス』では水野久美の入浴シーンがそれぞれ劇中に挿入されている(ちなみに、『妖星ゴラス』は水野久美と白川由美が夜の湖で泳ごうと洋服を脱ぐシーンで始まるが、これも同様のものといえよう)。これらはいずれも、劇中の誰かの視線を表しているわけではなく、仮に女優たちが入浴とは異なる行動をしていたとしても物語の進行にはほとんど影響がない。

 それに比べると、『シン・ウルトラマン』で浅見を見上げるアングルのショットは、その前後に巨大化した浅見を撮影しようとする野次馬たちが映し出されることで、誰の視線なのかは明白である。また、その後、ネット上に拡散した浅見の動画をメフィラスが「原始的な行動原理」と批判しながら削除する展開へとつながってもいる。それゆえ、ときに唐突な印象さえ与える黄金時代の「サービスシーン」とこのショットを、まったく同列に扱うことはできない。

 とはいえ、旧作にはなかった性的なニュアンスをわざわざ付け足さずとも、浅見の巨大化を観客に印象づけることは十分可能だったように思われる。ショットの前後の演出は「サービスシーン」を正当化するための方便と捉えても、決して強引な解釈とはいえないだろう。その意味で、当該ショットは「サービスシーン」の系譜上にあるといえよう。

(続きは『中央公論』2022年9月号で)

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真鍋公希(関西国際大学講師)
〔まなべこうき〕
1993年香川県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。論文に「特撮技師の執筆戦略──P.Bourdieuの場の理論の視座から」「『空の大怪獣ラドン』における特撮の機能──怪獣映画の『アトラクション』をめぐって」、共著に『メディア・コンテンツ・スタディーズ』『ゆるレポ』など。
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