堀元 見 流行りのビジネス書と「論破」ブームが生み出す不毛地帯
セラピーか「論破」か
──2016年以降のビジネス書を取り上げる中で、時代の潮流などは感じましたか。
僕が読んだ範囲だと、「とにかく飛べ!」的な、行動力礼賛のメッセージが多かったですね。たぶん重要なのは行動力ではなく、能力だと思うんですけど......。読者にとっては、行動力の問題だということにしてもらうほうが心地よいのでしょう。「行動力が大事」と言ってもらって、「よし、明日からやろう!」と思い立つセラピーみたいな要素が今のビジネス書にはあるんじゃないか。
行動力礼賛は、オンラインサロンの多くが標榜していることでもあります。「やりたい気持ちはあるんだけど、動き出せないあなたの背中を押します!」と。要は、あなたが今うまくいっていないのは、あなたのせいじゃないので会社を辞めましょう。正当に評価される環境──つまり私のオンラインサロン──に入って、一緒に行動しようぜ! と言って誘導するタイプが目立つ印象です。
ちなみに、ひと昔前のビジネス書である『七つの習慣』や『思考は現実化する』を読むと、「一度決めたことは、とにかく貫き通せ」といったストイックな教えが前面に出ています。でも今はそういうトーンよりも、優しいほうがはるかにウケがいいのでは。
――基本的なトレンドは優しい方向なんですね。最近、ひろゆきさんの「論破」がブームですが、彼はそうした潮流のカウンターとしてウケているのでしょうか。
意外にもというか、ひろゆきさんの本は、基本的に読者に対して優しいつくりです。ただ、たとえば彼の『1%の努力』(ダイヤモンド社)を読むと、実は担当編集者がかなりの部分を書いているということがわかります。ひろゆきさん自身、この本を作る上での努力を私は1%しかしていないと記していました。それって、99%は編集者の本じゃん、と。
――編集者が優しい人だったから優しい主張の本になった可能性はありますね......。「論破」という振る舞いについてはどう思われていますか。
基本的には、世も末だなと思っています。「論破」って子どもの精神性ですよね。
(続きは『中央公論』2023年1月号で)
構成:山本ぽてと
1992年沖縄県生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」に出演・プロデュース。著書に『教養(インテリ)悪口本』『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』。