川内有緒 執筆に行き詰まったとき「人間の内面にダイブしよう」と思った

川内有緒(ノンフィクション作家)

面白いと思ったら伝えたい

 31歳のとき、パリで国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の職員として働き始め、途上国の識字率などを分析して報告書を作成するほか、支援先への出張もしました。ライター活動は中断しましたが、何かをやりたい気持ちはあり、最初の著書となる『パリでメシを食う。』(幻冬舎文庫)のもとになる原稿を書き始めました。

 国連職員だった頃は、すごく時間があったんですよ(笑)。夕方6時になるとみんな「家族がいるから」「趣味の活動があるから」とパーッと帰っていく。単身で友達もまだいない私は暇でしょうがない。そこでパリ中心部で見つけた「59リヴォリ」という、アーティストが不法占拠していた建物に通うようになりました。そこで日本人画家のコバヤシエツコさんと出会いました。美大を出て画廊に所属して、という日本の美術家の潮流とまったく違うところで絵を描いて生きている人がいる事実に、とても感動したのです。

 本人に「ブログとか書いたらいいんじゃない」と提案しても「興味ない」と言うので、彼女の人生をどこかに書き留めておかねば、とインタビューさせてもらうことに。アトリエやオークションなど様々な現場についていき、6年かけて彼女のことを原稿に書き上げました。そのうちに他にも書きたい人が出てきて、パリに住む10人の日本人の話を1冊にまとめました。

 表現への欲望がどこから来るのか、よくわからないのですが、幼い頃からとにかく書いたり作ったりする子どもでした。小学3年生のときには漫画『うる星やつら』(小学館)を読んで「なんて面白いんだ!」と衝撃を受け、近所の子どもを集めて劇にしました。中学1年生のときはアメリカの冒険映画『グーニーズ』に感激して「こういう映画を作りたい!」と思い、家に帰るなりSFのシナリオを書き上げ、ビデオカメラを借り、周囲の子どもたちに出演を呼びかけて、近所で一人暮らしをしていたお姉さんの部屋を借りて撮影して映画に仕立てたこともあります。まるで「人生ひとり文化祭」(笑)。何かを見たり読んだりして受けた影響を内に溜めておけない、自分なりにアウトプットしたいという衝動が強いのだと思います。

(後略)

構成:高松夕佳

中央公論 2023年6月号
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川内有緒(ノンフィクション作家)
〔かわうちありお〕
1972年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学にて中南米地域研究学修士号を取得。著書に『バウルを探して』(新田次郎文学賞)、『空をゆく巨人』(開高健ノンフィクション賞)など。
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