草彅洋平 フィンランドサウナの誕生から「サ活」ブームへ

草彅洋平(編集者)

空前の社会現象の前夜

 サウナブームが起きる2019年以前には、ユーザー側と施設側から新たに三つの動きが出てきた。それは「イベント」とサウナをめぐる「環境」、そして「施設」のフィンランド化だ。それは本格的なフィンランドサウナを日本に導入したいと願う人々の物語でもあった。

「イベント」は手前味噌で恐縮だが、筆者が運営場所を提供、主催し、ビール飲料会社とタイアップした17、19年の「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」がとにかく早かった。現在活躍する多くのトップサウナー(サウナ愛好家)が来場し、参加者が後に全国各地で自らのサウナを作るなど、ブームの発火点となる。「サウナをこう使ってイベントを開けばいいんだ!」と示唆を与え、多大な影響をもたらした。

サ活.jpg2019年に開催された「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」は、2ヵ月にわたるイベント。大勢の来場者がサウナに魅了された(筆者撮影)

 与えた影響は複数ある。例えば「冬対策」だ。東京都世田谷区の下北沢の一等地で屋外イベントスペースを運営していた僕にはある悩みがあった。冬場は寒さや悪天候ゆえに屋外利用者が少なくなり、収益が下がることだ。

 そこで、サウナならこうした悩みを一気に解決できると予測し、このイベントを実施した。サウナにとって冬の寒さは、本場フィンランドを感じさせるもの。雨や雪も入浴後であれば「気持ちいい」とプラスに転化される。北海道や東北など雪の多い地域で、冬場の観光シーズンの集客に悩む事業者がこのイベントの噂を聞き、サウナを活用したのは当然のことであろう。

 さらに、サウナの「イメージの刷新」を図った。本イベントではサウナという「昭和のおじさん」コンテンツを徹底的にオシャレに、若者向きにブラッシュアップさせた。一緒に運営をしたTTNE株式会社は、サウナをファッションとして周知させるべく、「Saunner」Tシャツやグッズを製作、販売。防寒用のレンタルのサウナポンチョは肌を隠せるため女性に人気だった。

 また、水風呂を男女に分け、女性の水風呂に男性が浸からないようにした配慮も、女性客にサウナを広める契機となる。岩盤浴の経験はあっても「サウナは髪や肌が傷むから」と敬遠していた女性に、ロウリュサウナは気持ちよく、髪や肌を傷つけないことを知ってもらうきっかけとなったのだ。ビール飲料の広告施策のため、ファッション系モデルやインフルエンサーなども多数来場したことは、後の女性サウナーを育成する契機となっていく。

 これ以外にも、サウナが広告やイベント集客に利用できると証明したのが、19年の屋外フェス「森、道、市場」。ロックバンドのサカナクションが主宰するカルチャープログラム「NF」と、テントサウナを販売するSauna Camp.がコラボレーションして実現したこのイベントは、フェスにサウナを導入する先駆けでもあった。

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