飯間浩明 「◯活」の誕生と展開――〝ためになる行動〟をマーキングするための新しい造語成分

飯間浩明(国語辞典編纂者)
写真提供:photo AC
(『中央公論』2024年2月号より抜粋)

「◯活」は今や花盛り

 いつの間にか「◯活」ということばが珍しくなくなりました。街を歩いても、ポスターや看板などで、このことばをよく見かけます。

 たとえば、スーパーマーケットに行くと、バナナの棚に〈バナ活ライフ〉という札が掲げられています。「バナナ活動」のことでしょう。毎日バナナを食べようという、販売会社のキャンペーンです。

 この会社はパイナップルのキャンペーンもやっていて、こちらは「プル活」と言います。「パイ活」でない理由は、バストアップの活動などの名にすでに使われているかららしいと、SNSの情報に教えられました。ちなみに、別団体のプルーンの販促キャンペーンは「プ活」と言います。「プル活」がもう使われているからだろう、と言われます。

 それはともかく、「◯活」は今や花盛りです。2020年代に一般化したことばに限っても、アイドルやアニメキャラなどを応援する「推し活」、独りの生活を楽しむ「ソロ活」、アフタヌーンティーを味わう「ヌン活」、資産形成に励む「マネ活」などがあります。

 よく分からないのは「踏み活」です。〈女子生徒が異性の顔などを足で踏みつけて報酬を受け取る〉(『産経新聞』電子版、2023年10月25日)という活動だそうです。この記事によれば、神戸市で、踏み活の相手方の男が女子生徒の脚をなめたため、不同意わいせつの疑いで逮捕されたとのこと。何をか言わんや。

 こうした「◯活」の形をとることばは、一つ一つは新語・流行語とも言えます。でも、「活」という下接要素自体は、もう何年も使われていて、現代語の重要な一角を占めるようになりました。私が編纂(へんさん)に携わる『三省堂国語辞典』では、2014年刊行の第7版から、この「活」を「造語成分」(ことばを作る部品)として記述しています。その時点から数えても10年が経過しています。

 現在の第8版(2022年刊行)では、この「活」の意味を〈ある目的のために行動すること〉と説明しています。ただ、これではまだ十分に「活」の特徴を描き切れていないかもしれません。以下の考察を通して、この「活」はどのような造語成分なのかを考えていきます。


(中略)

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