飯間浩明 「◯活」の誕生と展開――〝ためになる行動〟をマーキングするための新しい造語成分

飯間浩明(国語辞典編纂者)

造語力を持った「力」「割」

 この文章の初めに、私は「活」のようなことばを「造語成分」(ことばを作る部品)と説明しました。あまり聞かないことばですが、辞書用語です。「接尾語」のことだと思われるかもしれませんが、接頭語や接尾語のほか、より具体的な意味を持ったことばも含む用語です。

 たとえば、「説得力」「判断力」などの「力(りょく)」ということばがそうです。「ちから」という具体的な意味を持つので、接尾語と言うより造語成分と表現します。こうした造語成分は、時として、ことばを作る能力を急に高めることがあります。

 1990年代後半、赤瀬川原平が「老人力」ということばを使って流行語になりました。物忘れなど、年配者に特有の現象を「老人ならではの能力」と積極的に捉えたのです。この「老人力」をきっかけに、これまでにはなかった「◯◯力」ということばが無数に作られました。

 私が拾った例では、たとえば、NHKの朝ドラの番宣で〈明るい家族力〉と使われていました。また、新人国会議員たちの〈選挙力〉を評価した雑誌記事もありました。新聞社の集まりでは〈「新聞力」の再構築〉をテーマに座談会が行われました。現在はやや落ち着きましたが、「力」の造語力はなお盛んです。

 あるいは、「割」という造語成分も、急に造語力を高めました。「1割、2割」の「割」ではなく、「割引」という意味の「割」です。

 もともと、「割」は、割引の意味では「学割」(「学生割引」の略)が使われるにすぎませんでした。ところが、1990年代の中頃、航空会社の「早割」「特割」というサービスが始まりました。これをきっかけに多くの「◯◯割」が生まれました。携帯電話の契約者には〈デビュー割〉、別の携帯電話会社から乗り換えた人に対しては〈替え得割〉というのがありました。ある旅行会社では〈シニア割〉、あるエステティックサロンでは〈まとめて割〉など、やはり今日までいろいろな「◯◯割」が生まれています。

「活」もまた、「婚活」の登場以来、強力な造語成分になりました。先の「恋活」「離活」のほか、さまざまな「◯活」が生まれました。定着したものも少なくありません。


(中略)

1  2  3