飯間浩明 「◯活」の誕生と展開――〝ためになる行動〟をマーキングするための新しい造語成分

飯間浩明(国語辞典編纂者)

「◯活」一般化の理由

 今や、何でも「◯活」と言えるほど、「活」という下接の造語成分は一般化しました。なぜこういう状況が現れたのでしょうか。私は国語辞典を作る人間なので、ことばの面からその理由を説明してみます。

 重要な点は、「活」の意味が「就活」「婚活」などの誕生当時から変化しているというところです。

「就活」はもちろん「就職活動」の略であり、「婚活」もまた、ことばの作者自身が「結婚活動」の略だと述べています。したがって、これらの「◯活」の意味を「◯◯する活動」と捉えるのは妥当です。

 ところが、「◯活」の中には、単純に「◯◯活動」の略とは言えないものが増えました。たとえば、「終活」は「終末活動」などの略ではありません。「人生の終わりを迎えるための準備活動」とでも言うべきものです。「美活」も同様で、「美しくなるために努力する活動」とでもなるでしょうか。このように、単純な省略形ではない「◯活」が非常に多くなりました。

 こうなると、「活」という造語成分は「活動」という語との結びつきが弱くなります。「◯活」の中には、「活動」と言えるかどうか微妙なものが多くなりました。冒頭で「バナ活」を「バナナ活動」と説明しましたが、バナナを毎日何本か食べることは、従来は「活動」とは表現しませんでした。

「活」の意味を、ここで改めて捉え直す必要があります。これらの「活」は、さしずめ「あるものごとに関する継続的な行動を表し、それが自分のためになると捉えた造語成分」と説明することができます。

 人は誰しも、自分にとって有益になるように行動したいと考えます。そこで、「この行動はためになる」と赤丸をつけてマーキングするような意図で「◯活」と表現するのです。毎日バナナを食べるのは面倒くさいと思う消費者も、「これはバナ活ですよ」と言われれば、前向きに捉えてくれるかもしれません。

「活動」ということば自体は、特にポジティブでもネガティブでもありません。ところが、「活」という造語成分は、行動をポジティブに表現することばとして、今や欠かせないものになりました。これからも便利に使われていくことでしょう。

(中略部分は『中央公論』2024年2月号で)

中央公論 2024年2月号
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飯間浩明(国語辞典編纂者)
〔いいまひろあき〕
1967年香川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学大学院文学研究科博士課程単位取得。『三省堂国語辞典』編集委員。著書に『辞書を編む』『ことばハンター』『日本語はこわくない』など。
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