多様性のあるまちづくりとは

遠藤 新(工学院大学教授)

"迷惑な施設"をどう包摂するか

 とはいえ、実際に多様性のある都市や街をつくるには難しい課題がたくさんあります。その一つは、必要不可欠だけれど、自分の家の近くにあるのは敬遠したい施設や、ある人にとっては必要だけれど、ある人にとっては迷惑に感じられる施設をどう組み込むかです。前者の例は廃棄物処分場や下水処理場です。後者の例を言うと......以前、幼稚園はうるさいからと近所に住む高齢者らが建設に反対している、というニュースが話題になりました。これは、SNSなどで対立構造がつくられやすいという、現代社会の負の側面とも言えますね。

 喫煙所も後者に含まれるでしょう。近年、喫煙は迷惑行為のように扱われています。しかし、喫煙行為自体は法律で禁じられているわけではありません。現在は、喫煙所という形で、エリアや時間で区切って喫煙を許可し、喫煙者を社会的に包摂する方法が取られていますが、一方で、例えば東京では、近年多くの自治体が「路上喫煙防止条例」を制定したり、都が「受動喫煙防止条例」を制定したりと、喫煙行為を広く排除する方向になりつつあります。

 しかし、どこまで広げるかは慎重に検討すべきです。確かに喫煙は健康を害するというエビデンスはあるようですが、程度の線引きはあいまいです。本当に健康への影響を憂慮するなら禁止すればよいと思いますが、そうはしない。私は喫煙者ではありませんが、もやもやします。

 喫煙をしたい人と、喫煙行為を迷惑に感じる人がいるのであれば、喫煙所を増やし、喫煙者を包摂するのがいいのではないでしょうか。個人的には、たばこ代に含まれているたばこ税の一部を喫煙所整備のための目的税にする仕組みをつくってもいいのではと思います。喫煙所が増えればたばこのポイ捨てや、火災のリスクも減るのですから。

 喫煙に限りませんが、都市空間の中で、ある行為を徹底的に排除しようとする動きはしばしば見られます。その行為が生命の危険をもたらし社会の秩序を大きく損なうものであればやむを得ないでしょう。そうではなく、個人の価値観や趣味嗜好、生活様式の違いが根本にあるということであれば、それらを包摂する方法を探り、どんな人にも居場所があり、それを許容していけるほうが、いい社会、いい都市空間なのではないでしょうか。

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