南野陽子 山の良さは必ず見つかる。「登らず嫌い」はもったいない!

南野陽子(俳優・歌手)
山梨の大菩薩嶺にて
 夏の登山シーズンを前に、山ロケ番組「そこに山があるから」にレギュラー出演中で、かねて登山を趣味としてきた俳優・歌手の南野陽子さんに、登山にはまったきっかけやその魅力について聞いた。
(『中央公論』2024年8月号より抜粋)

はじめての富士登山は泣く思い

 昨年の8月からBS朝日の「そこに山があるから」という番組にレギュラーとして出演しています。その撮影で、最近はたくさん山を登るようになりました。でも登山が趣味なのはもっと前からなんです。

 はじめて本格的に登った山は富士山でした。子どもの頃から私は運動がとっても苦手で、今でも20メートルも走れないくらい。でも歳をとっても続けられるような体を動かす趣味が欲しいなと思っていました。そんなとき、30代半ばくらいだったかな、「日本人なんだから一度は富士山に登ってみたいよね」と友だちと話しているうちに、なんとなく登る流れになってしまい......。でもいざとなると、体力が持つのか不安で。少しでも足腰を鍛えてから挑もうと、2リットルのペットボトル2本を入れたリュックを背負って、マンションの非常階段を50階くらいまで昇り降りしたりしました。ところがその筋肉痛が登山当日に来てしまって(笑)。本当に泣く思いで登ったのが最初でしたね。でも、富士山をなんとか登りきれたことで自信がついたんです。ちなみに、富士山はもう一回登頂しましたが、どちらも天気が悪くて、御来光を拝めたことは一度もありません。(笑)

 そのあとも、お仕事で山ロケがあるものは、ドラマの犯人役でも何でもお受けしました。プライベートで定期的に登るようになったのは、40代後半くらいからかな。といっても春と秋の年に2回です。コロナ禍などもあって歩く機会がなくなっていたところに、「そこ山」のオファーが来てまた登るようになり、改めて山の魅力を感じています。

 今まで登った山はどれも印象深いですが、お気に入りは長野県の戸倉山(とくらやま)です。ブナ林やエメラルドグリーンに染まる角間池(かくまいけ)としろ池がすごく綺麗で。10月くらいだったので紅葉もちらほらあって、いかにも毒々しい赤いキノコがあったり、蝶やトンボもたくさんいたりと、とにかく目に楽しい山でしたね。

 先日は静岡県の金冠山(きんかんざん)に行きましたが、低山なので疲れることもなく、稜線を歩くのがとても気持ちよかったです。そこで日没と夜景を見ました。いわゆるトワイライトタイムで、空一面がブルーやオレンジのグラデーションに色づき、かなたに富士山が見える。これ以上ないご褒美でした。

 山梨県の大菩薩嶺ではバンビちゃん(鹿)に会ったことも思い出深いです。ご飯を食べていたらやってきて、「うわ、こんな近距離!」ってテンションが上がりました。尾瀬の至仏山(しぶつさん)に行ったときなんか、友だちと盛り上がりすぎて下山が夜になってしまったこともありましたね。あと箱根の金時山(きんときやま)には6回くらい登りましたよ。山頂の茶屋の看板娘で、昭和天皇が名付けたことで有名な金時娘さんにも会ったことがあります。一番遠いところでは、ハワイのダイヤモンドヘッド。ハワイだと海に目が行きがちですが、山もいいんですよ。こうして振り返ってみると、たくさん登ってきたんだなと改めて思います。

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