水野太貴「言語はどのように生まれたか――認知言語学者・秋田喜美さんに聞く」

水野太貴(「ゆる言語学ラジオ」チャンネル)×秋田喜美(名古屋大学大学院准教授)

「ワンワン」から「イヌ」へ

 また秋田氏は、単語の起源がオノマトペやジェスチャーと関わっていたのでは、と説く。


「例えばイヌは、最初から『イヌ』と呼ばれていたのではなく、『ワンワン』のようにオノマトペ的に名付けられていたのではないでしょうか。もしかしたらそこにジェスチャーなども加わっていたかもしれません。それが徐々に音象徴性のない『イヌ』のような名前に変わったと考えられます」


 これは先ほど説明いただいた子どもの言語習得とそっくりだ。まず子どもは「ワンワン」「ブーブ」といったオノマトペ的なことばを覚える。その後、「イヌ」「クルマ」といった、音象徴性の乏しい名詞に置き換えるのである。いわばヘッケルが唱えた反復説だ。彼は「個体発生(生物の成長)が系統発生(進化の歴史)を繰り返す」と考えたわけだが、言語でも子どもの言語習得が言語の進化を繰り返している可能性があるのだ。

 少し脱線するが、実は動物の名前は思いのほか音象徴性が高い。というのも、僕は昔『新明解語源辞典』を頭から最後まで読んだことがあるのだが、動物名の語源は想像以上に鳴き声に由来するものが多いと感じたのだ。例えばネコの「ネ」は鳴き声に由来しており、「コ」は親愛を表す接尾辞だという。つまりネーネー鳴くからネコだというわけだ。他にも、ヒヨコはピヨピヨ鳴くからヒヨコと呼ばれるし、セミも「セ」は鳴き声に由来するという説がある。これは一般化すると、「名詞はもともと音象徴性のある名付けだった」を裏づける結果ともいえるだろう。

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