音楽産業の地殻変動が生む2020年代のグローバルヒット

柴 那典(ライター、編集者、音楽ジャーナリスト)
写真:stock.adobe.com
(『中央公論』2025年8月号より抜粋)
目次
  1. 国境と言語の壁を越えて
  2. 閉塞感の2010年代

国境と言語の壁を越えて

 近年、グローバルに活躍の場を広げるJ-POPアーティストが続々と登場してきている。日本のポップミュージックがアジアやアメリカやヨーロッパにファンを増やし、世界各地で着実に人気を獲得しつつある。


 アーティストの活躍だけにとどまらず、音楽業界が一丸となった取り組みも大きな話題を呼んでいる。今年5月には、国内最大規模の新たな国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN(以下MAJ)」が初開催された。音楽業界の主要5団体(日本レコード協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、コンサートプロモーターズ協会)が結束して2023年に立ち上げたCEIPA(一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会)の主催するアワードだ。「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトに、日本のアーティストや楽曲の海外発信を後押しし、アメリカの「グラミー賞」のような権威ある賞となることを目指している。

 5月22日に開催された授賞式はNHKで生中継され、YouTubeでも英語字幕付きで配信された。主要部門の授賞だけでなく、藤井風やYOASOBI、矢沢永吉など日本を代表するアーティスト達のライブパフォーマンスも注目を集めた。

 こうした潮流はどのようにして生まれたのか。どんなことを象徴しているのか。実はこの背景には、音楽だけにとどまらず、日本という国が直面している大きな構造変革の兆しがある。

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