大山 顕 戦前・戦争写真のカラー化は何を見えなくしたのか――色づけが生み出すスペクタクル
大山顕(写真家・ライター)
写真家・ライターの大山顕さんが、「記憶の解凍」プロジェクトについて検討。なぜ、その試みに違和感を覚えたのかを綴ります。
(『中央公論』2022年10月号より抜粋)
(『中央公論』2022年10月号より抜粋)
- 新型コロナウイルスの表象
- 戦前・戦争写真のカラー化に対する違和感
- 写真と色覚の「色眼鏡」
新型コロナウイルスの表象
新型コロナウイルスと聞いて、どのようなビジュアルを思い浮かべるだろうか。おそらく多くの人が、上のイラストのようなイメージを連想するのではないか。
このイラストは米疾病対策センター(CDC)の医療イラストレーターであるアリサ・エッカート氏とダン・ヒギンス氏によって制作されたもの。ニュースサイトやテレビなどでさんざん目にした、おなじみの新型コロナウイルスの姿である。
ぼくは、カラーで見ると毒々しい色が特徴的なこのイラストに強い違和感を覚える。世界中の人びとが当たり前のように、このウイルスこそが、多くの犠牲者を出し未曽有の混乱を引き起こした闘うべき「敵」と考え、この姿形を思い浮かべる。
しかし、ほんとうにウイルスは「敵」なのだろうか。ここでぼくが連想したのは、太平洋戦争の戦前から戦後にかけてのモノクロ写真をカラー化するプロジェクトのことだった。