大山 顕 戦前・戦争写真のカラー化は何を見えなくしたのか――色づけが生み出すスペクタクル

大山顕(写真家・ライター)

戦前・戦争写真のカラー化に対する違和感

 2020年、庭田杏珠(にわたあんじゅ)・渡邉英徳(ひでのり)の共著による『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)という写真集が出版された。話題になった本なので、ご存じの方も多いだろう。タイトルの通り、戦前・戦争のモノクロームの写真をAIの力も借りてカラー化したものが数百枚掲載されている。

 著者の一人、渡邉氏は本書で「カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?」と語り、この試みを「記憶の解凍」プロジェクトと名づけている。実際、本書のレビューを見ると、「色が付くことで身近に感じられるようになった」「リアリティを感じる」「現在の自分たちと地続きなのだと実感した」などといった言葉が並んでいて、著者のもくろみは成功したと言えるだろう。

 しかしぼくは本書の色づけされた写真とこれらの感想に対して、先のウイルスのイラストと同様の違和感を覚える。

 写真の歴史を見れば、モノクローム写真に着彩を施した例はいくらでもある。カラーフィルム/プリント普及以前の観光絵葉書などにはよくあることだった。しかし、ここで素材として選ばれているのは戦争にまつわる写真だ。楽しみのための着彩ではなく、前述したように「戦争と私たちの距離」を縮めるという一種の啓発を目的としている(楽しみと啓発は両立しないのか、という問題はここでは措こう)。

 その際、まず問題になるのは、色の正確性だろう。本書の刊行以前に渡邉氏のSNSで公開された写真には、実際と異なる着彩がなされたものがしばしばあったという。AIによる推定なのだからそういうことが起こるのは当然で、渡邉氏もこれは予想していたようだ。本書の中でも「AIが判断できない人工物の色は、(戦争体験者との)対話の内容や資料をもとに修正します。SNSで寄せられた情報をもとに、色補正することもあります」「自動カラー化、対話を踏まえた色補正。そして再度の対話と、さらなる色補正......「カラー化」と「対話」は同時に進行していきます。そして、終わりはありません」「カラー化された写真の色彩は「実際の」色彩とは異なります。できる限りの「再現」を目指していますが、まだまだ不完全です。(略)おそらく、永遠に終わらない旅です」と、慎重に説明している。

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