織田信長も切り取った蘭奢待、14年ぶりに公開

奈良の東大寺正倉院は、古来天皇の封(勅封(ちょくふう))により閉ざされ、開けるときは勅使が派遣されて「開封の儀」をおこない封が解かれる天皇家のお宝を収めたお蔵であり、現在は宮内庁によって厳重な管理がなされている。
毎年晩秋に奈良国立博物館において正倉院展が開催され、収蔵されている宝物が一般に公開される。今年2025年は、「黄熟香(おうじゅくこう)」が14年ぶりに展示されることで話題になっている。黄熟香は「蘭奢待(らんじゃたい)」の別名で知られる香木である。むしろこちらの別名のほうが一般には知られているだろう。
蘭奢待については、展示の報道以前に、科学分析の結果と、それによる〝香りの再現〟が話題となった。正倉院の宝物を管理する宮内庁正倉院事務所による組織構造・成分分析の結果、それは東南アジア原産のジンチョウゲ科の樹木であり、放射性炭素年代測定法により、8世紀後半から9世紀後半の時期に伐採されたか倒木したということがわかった。香りの再現は、夏に大阪歴史博物館で開催された特別展「正倉院 THE SHOW」でなされた。実際に香りを体験した方はどんなふうに感じられただろうか。
蘭奢待は、長さ156センチ、重さ11・6キロと、人間の背丈ほどもある意外に大きな香木である。宮内庁のホームページから正倉院の宝物が検索可能であり、ここではさまざまな角度から、また拡大するなどしてその画像を楽しむことができる。
現在の蘭奢待には3ヵ所に紙箋(しせん)が置かれ、右から「足利義政拝賜之処」「織田信長拝賜之処」「明治十年依勅切之(明治十年勅によりこれを切る)」と墨書がある。足利義政、織田信長、明治天皇が切り取ったとされる部分を示しているのである。実際にこの3人には、蘭奢待を切り取って(切り取らせて)、その木片を入手した記録が残っている。
足利義政、織田信長が切り取った個所を示す紙箋が置かれた部分(写真提供:宮内庁正倉院事務所)
(中略)