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習近平の力量不足がもたらす新たな権力闘争

矢板明夫(産経新聞中国総局(北京)特派員)

 これまでのように、秘書チームが時間をかけて作った原稿ならば、ロジックがしっかりしており、前後に矛盾はなく伝達しやすいが、会議での即興発言になると、内容が散漫になり言いたいことが掴みにくい。各地域によって党中央の意向に対する理解が異なるなど様々な不都合が発生している。

 ある共産党の古参幹部は「歴代指導者がとってきた方法には、それなりの理由がある。簡単に変えられるわけがない」と安易な改革を推し進めようとする習指導部を批判した。一部の地域から「前の方法に戻そう」と求める意見も出てきている。中には、新方針を実施していない地域もある。

 このほか、前政権との違いを強調するため、金融、経済などの分野でも新しい政策や方針を複数発表しているが、現実的ではなく実施できないため、朝令暮改になるケースも多く、現場から「よく考えて方針を決めてくれ」といった苦情が寄せられているという。

 インターネットで最近、最も批判されているのは反腐敗対策をめぐる習政権の「ほら吹き」だ。習氏は昨年十一月、共産党総書記に就任した際には、「腐敗と徹底的に戦う」と言明。その後、「ハエもトラも一緒に叩く」と、大物政治家をも摘発すると宣言した。中国民衆の認識では、「トラ」と呼べるのは、二〇一二年春に失脚した薄熙来重慶市党委書記のような政治局(定員二五人)メンバークラス以上の政治家だ。しかし、習政権発足から九ヵ月がすぎたが、副閣僚や局長クラスの幹部を数十人摘発しただけにとどまっている。前任者の胡錦濤時代とくらべて、摘発人数がとくに多いわけではなく、肝心の大物は皆無だった。

 ちなみに、習氏の宣言後、巷では摘発される「トラ」をめぐり、様々な憶測が飛び交った。二〇一二年末、党中央宣伝部長の劉奇葆氏の外国訪問が突然キャンセルとなり、一時はメディアからも姿を消した。「四川省勤務時代の経済問題で調べを受けている」と香港紙に報道されたが、劉氏は間もなく復活している。また、全国人民代表大会(全人代=国会)秘書長だった李建国氏も「山東省勤務時代の不祥事で失脚した」との噂が広がり、李氏の動静は一ヵ月以上も伝えられなかったが、その後復活し、全人代筆頭副委員長に選出された。摘発されるどころか、出世しているのだ。

 さらに今年三月に開かれた全人代に前軍事委員会副主席の徐才厚氏が欠席したことが話題になり、「党規律検査委員会に拘束された」との噂が広がった。「部下の経済事件に巻き込まれたのではないか」と推測する軍関係者もいたが、徐氏もその後、再びメディアに姿を現す。三人とも政治局員級の大物だったが、結局誰も失脚していない。

 共産党筋は「徐氏は江沢民元国家主席の側近、劉氏と李氏は胡錦濤前国家主席の腹心だ。それぞれ問題があることは事実と思うが、いまの習近平氏には彼らを摘発できるほどの政治力はない」と指摘する。党内における求心力が弱い習氏は、結局のところ、実力者には手を出せないとの見方が有力だ。

 日本を研究する専門家の一人は「習近平政権は、日本の民主党政権が発足した当時と非常に似ている」と指摘する。「国民から高い期待を受けてスタートしたが、功を焦って実現できそうにない政策を数多く打ち出し、次々に失敗したことで国民を失望させた。この点で酷似している」というのだ。

毛沢東を真似するわけ

 中国国内のインターネットでは今年四月ごろ、習近平氏が外国要人と会見したときの様子と、中国建国の父、毛沢東とを比べる数セットの写真が出回った。国営新華社通信などが撮影した習氏と毛のこれらの写真を並べると、二人はそっくりだ。人民大会堂で客人を待つときの立ち姿、表情。握手するときに手をさしのべる角度など、瓜二つだ。インターネットユーザーから「習主席は家で鏡を見て練習しているに違いない」といった感想が寄せられている。中国の最高指導者に就任後、習氏が毛沢東を意識し、真似していることはすでに周知の事実となっている。一部の党関係者は習氏に対し「毛二世」というあだ名を付けた。

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