いつまで続く、朴槿恵の強硬姿勢

武貞秀士(拓殖大学客員教授)

 中国は機を見るに敏である。日本批判を続けながら中韓貿易を拡大する韓国に対して、様々な便宜を供与し続けた。北朝鮮の地下資源を一方的に中国に輸入しながら、一方では中韓貿易を拡大して、朝鮮半島の南北に対する影響力を拡大する構想を持っているからである。

 日本を押さえ込めば中韓両国に利益ありという戦略で中国と韓国は一致しているので、慰安婦問題、ハルビン駅の安重根記念館開館、靖国神社参拝をめぐっては、中韓はいつでも連携することができる。そこには「加害者に対する被害者の苦しみ」という言葉ではあらわせない未来志向の構想があることを見抜かねばならない。

 朴大統領の反日姿勢は、強まることはあっても弱まることはないだろう。朴大統領のもとでは、日韓関係について日本専門家が大統領府に助言をすることが不可能な状態だ。大統領側近に日本通がおらず、日韓国会議員交流の成果が大統領府の政策に活かされる構造になっていない。韓国外交部北東アジア担当部門のトップは中国スクールで、「中国を韓国外交の中心に据える」という戦略はますます加速している。

 日本批判をし、歴史問題をネタにして、中国と一緒に日本の非を指摘し続けることにより、韓国内で圧倒的な支持を獲得することができる。国民の支持率が低下すれば、日本を批判して、国内の人気を挽回することができる。反日がもっともてっとり早い方策であるのはいままで通りである。

 朴政権の政策は政権発足時のままである。朝鮮半島の信頼プロセスと北東アジア平和協力構想を通じて、この地域の平和と繁栄を模索すると強調し、日本の役割に触れなかった政策である。中韓の戦略対話と経済緊密化を進め、米国との同盟を強化してゆくとき、韓国経済は世界市場で存在感を増し、バラ色の未来があるという国家戦略は、一年後のいまも変わらない。

中国依存への不安も

 朴大統領は中韓関係を強化しつつ、日本批判を続けながら、中国との間の懸案事項を対話で解決してきた。朴大統領が昨年六月、中国を訪問して首脳会談をしたとき、両国の軍事分野の人的交流を拡大することに合意し、中韓の制服組トップ同士の信頼関係ができつつある。両国の外交と軍事分野の研究機関が合同で中韓戦略対話を実施したのは両国の軍事交流の成果のひとつである。

 昨年十一月下旬、中国が防空識別権を拡大して、日中関係が緊張したが、中韓でも領有権をめぐり係争中である岩礁を防空識別圏の中に入れたので、論争が起きた。しかし、中国政府関係者は「中韓は(日中とは異なり)話し合いで解決できる関係」と述べ調整を急ぎ、その言葉通り、中韓間で防空識別権問題が紛糾することはなかった。朴政権の反日姿勢が韓国にもたらした利益のひとつであった。

 朴大統領の置かれた立場は、日韓関係に関するかぎり厳しいものではない。日本に譲歩することのほうが国内政治と対中外交上のリスクがある。日本との関係改善に軽々に乗り出せば、中国からの厳しい揺さぶりに直面するだろう。朴大統領は中国の気分を害してまで、日本との関係改善を模索することはできない。ましてや円安、ウォン高で韓国経済が苦境に陥り、中国経済への依存度を高めつつあるとき、反日、親中路線を強化する以外の選択はない。

 では、韓国内に「日本を外し、中韓を強化することにはリスクがある」という意見はないのだろうか。韓国ソウルにある峨山政策研究院世論研究センターは、昨年十二月二十六日の安倍首相の靖国参拝直後に世論調査を実施した。その結果では「日本との積極的関係改善のために大統領が積極的に動くべき」(五七・八%)という意見が「必要ない」(三三・八%)より多かったそうだ。韓国社会は、朴大統領の対日姿勢がいまのままでよいと考えているわけではないという結果である。

 その背景には、韓国が中国経済だけを頼りにしていて大丈夫かという将来への不安があるだろう。韓国済州島では、観光振興のために、中国の不動産業者の要求を受け入れて、大規模な住宅地造成をしているが、済州島の先祖代々の墓を更地にして、マンションを建てることに、韓国人は複雑な思いを抱きつつある。経済優先、中国マネー誘致のために韓国の先祖代々のものを地ならしすることへの抵抗である。これは、韓国で存在感を増す中国という存在に対する韓国社会の葛藤であり、韓国のいまの国家戦略が持つリスクのひとつであることに韓国人のごく一部は気づきはじめたように見える。

 一方で、韓国では安倍政権はかつての政権とは違うという見方が浮上しつつある。韓国に譲歩を繰り返した過去の政権と違い、安倍政権は歴史問題で圧力をかけても譲歩する兆候がない。

 中国経済に依存し、中韓協力を外交の柱に据えた韓国は、日本外しの戦略を維持しながら、米韓関係を調整しつつある。しかし、中国経済の好調は長期間続くものではない。中韓FTA締結や、韓国の核兵器保有につながる米韓原子力協定の改定問題で、米韓関係は波瀾含みだ。韓国の対中、対米、対日政策のメリットとデメリットの結果は、意外と早く出るのではないだろうか。
(了)

〔『中央公論』20143月号より〕

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