爪を隠した中国の経済展望 丸川知雄

丸川知雄(東京大学教授)
コロナ禍のダメージを抑え、一早く経済を復調させている中国。
3月の全国人民代表大会では第14次5ヵ年計画を採択したが、そこには従来とは根本的に異なる変化があったという。
中国経済を専門にする丸川知雄・東大教授が中国の展望を読み解く。
(『中央公論』5月号より一部抜粋)

中国経済の見通し

 中国は世界で最初に新型コロナウイルス感染症の流行に見舞われたが、二〇二〇年四月には感染拡大をほぼ抑え込むことに成功した。そして二〇年一~三月にはコロナ禍の影響で前年同期に比べマイナス六・八%と落ち込んだ中国のGDP成長率は、四月から順調に回復し、十~十二月には前年同期比プラス六・五%と、完全にコロナ禍以前の成長のペースを取り戻している。

 その結果、二〇二〇年を通してのGDP成長率はプラス二・三%と、主要国のなかで唯一プラス成長を実現した。特筆すべきは、中国が大きなコストをかけることなく、経済の回復を実現したことである。中国政府は地方を通じて低所得層への補助を拡大したり、困難に見舞われた中小企業への援助をしたりしたが、日本やアメリカのように国民に一律に現金を配るようなことはしていない。また、コロナ対策として減税や補助の拡大を行ったが、それでも二〇二〇年の財政赤字はGDPの六%にとどまっている。一方日本は、二〇二〇年度について三度の補正予算を組んだ結果、年間の財政赤字は一一二兆円となる見込みで、これはGDPの二〇%に相当する。たとえて言えば、日本経済が人工心肺を装着してなんとか生きながらえているのに対して、中国は薬と自然治癒力によって経済回復を実現した、とも言えよう。

 経済の自律的な回復が始まったことから、中国は二〇二一年の財政赤字を減らす方針である。二〇二一年のGDP成長率の目標は「六%以上」としている。これは一見すると強気の方針のように見えるかもしれないが、実はかなり控えめである。二〇二一年の成長率は、コロナ禍で打撃を受けた二〇二〇年を基数として計算されるので、経済が二〇一九年までの成長ペースを回復していれば、成長率は九%ぐらいになるはずである。IMF(国際通貨基金)は中国の二〇二一年の成長率は八・一%と予測している。

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