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爪を隠した中国の経済展望 丸川知雄

丸川知雄(東京大学教授)

近づく米中逆転

 一方でアメリカは、日本と同じように必死の経済対策を打ったにもかかわらず、二〇二〇年のGDP成長率が前年比マイナス三・五%となった。それによってアメリカと中国の経済規模の差が縮まり、二〇一六年の中国のGDPはアメリカのそれの六〇%であったが、二〇二〇年には七〇%となった。

 二〇二一年はアメリカ、日本ともにプラス成長に回復すると予想されているが、それでもアメリカと中国の差はますます縮まり、中国と日本の差はますます広がるであろう。というのも、二〇二〇年六月から人民元のドルに対する為替レートが上昇しているからである。二〇二一年の間、おおむね現在のレート(一ドル=六・五元)が維持されるならば、二〇二一年の中国のGDPは対米比で七七%、対日比で三・二倍となる。中国のGDPがアメリカのそれを追い抜くのはもはや時間の問題で、それがいつになるかは為替レート次第である。

 アメリカはトランプ政権時代の二〇一九年八月に中国を「為替操作国」に認定し(但し、二〇二〇年一月に認定を解除した)、中国の為替レートが不当に低く抑えられていると主張してきた。しかし、仮にアメリカのいう通り、中国が一ドル=五元まで人民元の上昇を容認すれば、今年中にも米中逆転が実現してしまうのである。筆者の予測では、GDPの米中逆転は二〇三〇年代に到来するが、為替レートがさらに元高になるならば、米中逆転が数年早くなる可能性がある。

 経済力に自信を得た中国は、コロナ禍が世界に広がっているのを好機ととらえ、「マスク外交」や「ワクチン外交」を展開して途上国への影響力拡大を図る一方、尖閣諸島や南シナ海では現状を変更しようとし、香港では住民の抗議や諸外国からの批判に耳を貸さず、民主主義を圧殺しようとしている。だから、アメリカ、日本、インド、オーストラリアの四ヵ国で「クアッド」を組んで、中国の野心を封じ込めなければならないのだ─。日本のマスコミが描く中国をめぐる現下の国際情勢はこのような感じだろうか。

 ところが、二〇二一年三月上旬に開催された中国の全国人民代表大会(全人代)における政府活動報告やそこで採択された第一四次五ヵ年計画(二〇二一~二五年)を見ると、日本のマスコミが描くアグレッシブな中国像とはまったく異なる姿がある。しかし、そうした姿は日本のマスコミが持つ中国に対する先入観と合わないため、報道されない。

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