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混迷のパレスチナ情勢 PASSIA・マフディー博士に聞く

マフディー・アブドゥルハーディー(パレスチナ国際問題学術研究協会理事長)/聞き手:ハディ ハーニ(慶應義塾大学助教)

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─衝突の発端は、東エルサレムのシャイフ・ジャッラーフ地区にて、イスラエル側の一方的な都合でパレスチナ人が住居から退去させられたことにあり、イスラエルは国際的にも批判を受けました(地図参照)。

 シャイフ・ジャッラーフの所有財産の問題については、法的問題というよりは政治的問題としてとらえるべきです。イスラエル側は基本的にこの地からパレスチナ系住民を強制的に退去させ、イスラエル人入植者を住まわせようと考えています。パレスチナ人がイスラエルの法廷に訴えても、公正な判決、あるいは和解などの落としどころに至ることは非常に困難です。イスラエルは、ほかにもシルワーン、バトヌ・アル=ハワーなど、パレスチナ人居住区から住民を退去させ、入植し、統治することを基本方針としています。

─イスラエルと対峙するパレスチナ側、特にハマースの反応について、どのように見ていますか。

 ネタニヤフは政権の延命を図ろうとガザの周囲に軍隊を配備し、住民を刺激しました。当然ガザは、特にハマースは怒り、立ち上がります。

 ちなみに、ハマースは自らをテロ組織ではなく、「抵抗運動」と規定しています。また、自身をパレスチナ評議会を構成する一部とみなし、聖地エルサレムやアル=アクサー・モスクの防衛を目的としてきました。

 今回、ガザ地区はイスラエル軍によって一一日間の爆撃を受け、破壊されました。しかしガザは降伏しなかった。アメリカの圧力を受けてネタニヤフも停戦に向けて動き出し、最終的にはエジプトやカタールによる仲介で停戦へと至りました。

 しかし、これら行為がパレスチナ人を刺激し、各地で人々を立ち上がらせたのです。西岸地区、ガザ、ディアスポラ(難民)それぞれの人々が、パレスチナの旗、エルサレムの名のもと、尊厳のために立ち上がりました。強調したいのは、この痛々しい傷口こそが、イスラエルそのものだということです。パレスチナ人は、かつてのアメリカにおける「黒人」であり、ユダヤ人国家を望む排他的なイスラエル人は「白人」なのです。アラブ人はマイノリティとして、二級市民として扱われる存在なのです。クネセット(イスラエル議会)は、陸海空すべてのものをユダヤ化・イスラエル化し、併合するために都合よく作られた法体系を有しています。我々はそうした現実の中で生きているのです。

─今回の衝突は、パレスチナ問題の歴史におけるひとつの転換点とみなすこともできるのでしょうか。

 それは時期尚早です。ほかのプレイヤーの動きも考える必要がある。

 アラブ諸国の中には、「アラブ和平イニシアティブ」と呼ばれる和平提案に触発され、イスラエルとの国交正常化に関心を示している国があります。この案では、西岸地区を中心に、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の建設を承認する二国家案を実現することが謳われています。EUもこの二国家案に基づき、パレスチナ人の民族自決についての交渉の再開を求めています。そしてアメリカのバイデン大統領も、エルサレムはイスラエルによる占領地に含まれ、その地位は交渉に委ねられるべきだと、エルサレムでのパレスチナ人の権利を認めているのです。

 しかし、この議題は世界に開かれていると我々が認識していても、イスラエル側の態度は依然として閉ざされています。そしてエルサレムにおける排他的で右派的なユダヤ化・イスラエル化の問題は現在も続いています。

 これらを踏まえると、今回の事件を転換点とまでは呼べませんが、パレスチナ問題における「動転」、または「地震」くらいには言えるでしょう。少なくとも、パレスチナ問題が未解決であることを多くの人々に再認識させたからです。

[註]
(※1)イスラーム教において三番目に神聖なモスク

 

(『中央公論』2021年8月号より抜粋)

マフディー・アブドゥルハーディー(パレスチナ国際問題学術研究協会理事長)/聞き手:ハディ ハーニ(慶應義塾大学助教)
◆マフディー・アブドゥルハーディー〔Mahdi Abdul Hadi〕
1944年パレスチナ生まれ。ダマスカス大学卒業後、弁護士として活動。84年英国ブラッドフォード大学平和研究大学院より博士号を取得し、87年パレスチナ国際問題学術研究協会(PASSIA)を創設。協会はパレスチナ問題を中心に広汎な研究・出版活動を行う拠点として認知されてきた。『100 Years of Palestinian History』など英語・アラビア語での著書多数。

【聞き手】
◆ハディ ハーニ
1992年埼玉県生まれ。博士(政策・メディア)。日本とパレスチナのハーフで、パレスチナ問題を中心に研究。
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