"戦狼"中国といかに向き合うか? 英・仏・独・EUの「本気度」
鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)
イギリス海軍空母「クイーン・エリザベス」が9月4日に横須賀港に寄港した。台頭する中国への警戒と、日本との連携が目的とされる。これまでヨーロッパ諸国は中国への対応が甘いと言われてきたが、最近になってインド太平洋への関与を深めている。これから欧州諸国はどう動くのか? 欧州政治を研究する筆者が今後の展開を考察する。
(『中央公論』2021年10月号より抜粋)
(『中央公論』2021年10月号より抜粋)
欧州の対中姿勢は全体として急速に厳しくなり、「欧州は経済偏重で中国に甘い」という従来の理解はもはや現実にそぐわない。
2010年代半ば以降、中国企業による欧州企業買収を通じた技術流出への懸念が、ドイツを中心に高まり、その後、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題への批判が強まった。さらに、新型コロナウイルスに関する初期段階での情報隠蔽などが問題視され、欧州における対中認識は2020年以降、総崩れともいうべき状況に陥った。特定の欧州諸国を狙い撃ちにする中国の強硬姿勢、いわゆる「戦狼外交」も逆効果だった。
ただし、欧州が「対中包囲網」といえるほどの状況を形成しているか、欧州の対中姿勢についてその「本気度」を測定するのは難しい。というのも欧州とは何を指すのか、個別国か、EU(欧州連合)か、も問題になる。また、欧州内での温度差も依然として大きい。
さらに中国に関連して、欧州が重視する分野が日本と異なるのも現実だ。これは、日欧間のすれ違いの原因になりかねない。例えば、人権やサイバーに関しては、欧州の一部の方が対中懸念度が高い。他方、尖閣諸島などを想定したグレーゾーンの事態への対処では日本の警戒度の方が高い。
そこで本稿では、これらの点に着目しながら、特に英仏による軍事的関与と、EUの対中アプローチを中心に検討していきたい。