"戦狼"中国といかに向き合うか? 英・仏・独・EUの「本気度」
英空母打撃群は「英米合同」
欧州のインド太平洋への関与、さらには中国へのメッセージという観点で、昨今最も注目されているのは、英空母のアジア派遣であろう。
2021年5月に英国を出発した英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群(CSG21)は、地中海、インド洋、南シナ海を経て、8月から9月にかけては西太平洋などで日本や米国、その他の同志国とともに各種の共同訓練を実施し、その後、日本に寄港する予定である。
英国にとってのCSG21は、EU離脱後の新たな対外戦略「グローバル・ブリテン」の主要な柱の一つである。空母派遣は、インド太平洋地域への関与の真剣さと技術力を示すものであり、英国の対外的影響力増大のための外交ツールという性格も有する。
ただし、より重要なのは軍事面である。CSG21における最大の特徴は「英米合同」で、米国が前例のない規模でコミットメントしている点だ。それは艦隊の構成にもみられ、空母艦載機のステルス戦闘機F-35Bは、全18機のうち、英国(空軍)所属が8機であるのに対して、米国(海兵隊)所属の方が多い10機である。艦隊防空で重要な役割を果たす駆逐艦も1隻は米海軍の「ザ・サリヴァンズ」である。こうした米国の参加は半年以上の全行程におよぶ。それだけ米国も真剣で、自国の利益にもなるとの計算があるからこその行動だろう(さらに、オランダ海軍のフリゲートも参加している)。
そしてCSG21の軍事面での最大の目的は、西太平洋で英米間の空母を伴うF-35Bの共同作戦能力を確認することである。この基礎にあるのは、英米の特に海軍間で進む「代替可能性(interchangeability)」という考え方である。
各国軍の間ではともに行動するための「相互運用性(interoperability)」の向上が目指されてきた。代替可能性はそのさらに先をいくものであり、文字通り能力を提供し合い、国の垣根を越えて一体化した運用を行うものである。米航空機や艦艇は、英空母打撃群の一員として英軍の一部であるかのように行動する。同様に、英軍は米軍の一部として行動する。
そして英国は、この枠組みに日本を入れた「日米英」の3ヵ国協力を期待している。
海上自衛隊の「いずも」型護衛艦が「空母化」されたあかつきには、日本もF-35Bを運用するが、航空自衛隊はすでに空軍型のF-35Aを運用しており、今回も日米英の共同訓練が想定される。今年7月にウォレス英国防相が来日した際、東京の前の訪問地が米インド太平洋軍司令部の所在するホノルルだったのも、決して偶然ではない。
CSG21が「英米合同」であることを踏まえれば、それと日本が共同訓練をすれば自動的に日米英になる。日米同盟を基軸に据える日本にとっては、日英よりも日米英の方がさらに魅力的だろう。中国からみても、日英と日米英とでは違いがあり、後者の方がより警戒を要するであろうことは想像に難くない。
そこで問われるのは、日本がこうした動きにどこまで踏み込めるかである。日米協力にも依然として各種の制約が存在するなかで、日英間、さらには日米英の三国間でどこまで可能なのか。
日本では、日英同盟の再来を期待する声がある一方で、英国の能力や意図、関与の継続性に関して懐疑的な見方も根強い。しかし、米英間での「合同」が進み、英国がインド太平洋への軍事的関与を継続的に強化する意思を示すなかで、それを日本と地域の安全保障、そしてそのための抑止態勢の強化にいかに活用できるかは、日本次第でもある。
CSG21は、太平洋に到達前、東地中海に展開中には「イスラム国」に対する空爆にも従事した。空母「クイーン・エリザベス」にとって初めての戦闘任務になった。また、イスラエル空軍のF-35とは、空対空や空爆の他、敵地奥深くへの侵入というシナリオでレベルの高い共同訓練も行った。英空母打撃群は、英米合同での戦闘任務を含む実戦態勢の整備という、高度な軍事的指向性を有しているのである。