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安倍外交「自由で開かれたインド太平洋」構想は、 いかにして誕生したか

日本国際フォーラム上席研究員・高畑洋平氏が解説
高畑洋平

「競争」と「協調」の両面に配慮

 他方、FOIPにはもう一つ特筆すべき点がある。それは、太平洋とインド洋という「二つの大洋」の化学反応(交わり)による新たな価値創造について、対中関係という視点から、「競争」と「協調」の両面に配慮がなされていた点だ。すなわち、FOIPでは、現在「インド太平洋」において各種の脅威に直面する中、日本は、先ずもって法の支配を含むルールに基づく国際秩序の確保、航行の自由、紛争の平和的解決、自由貿易の推進を通じて、同地域を自由で開かれたものにすることを目指している。これは中国との「競争」だ。

 一方、「協調」については、安倍自身が日中平和友好条約締結40周年の節目の年(201810月)の日中共同記者発表において、次のとおり語っている。

 「競争から協調へ。日中両国の関係は、今まさに『新たな段階』へと移りつつあります。李克強総理と共に、両国関係を大きく前進させていきたいと思います。(中略)我々は、隣国同士です。互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない。この明確な原則を、先ほどの首脳会談において、李総理と確認しました」

 そして「我々は、共に、国際社会の平和と繁栄に、建設的な役割を果たしていきます。そのことで完全に一致することができました」

 これは明らかに中国との「協調」を意識した発言だ。

 このように、FOIPにおいて「競争」と「協調」の両面が内包されているわけだが、安倍の発言から、FOIPでは、中国を「競争」相手として捉えるよりももっぱら「協調」相手として捉えたいのではないか。いずれにせよ、日本としては、FOIPに可能な限り中国にも加わってもらい、同地域の平和と繁栄を共に目指そうとする姿勢であることは疑いない。

 その意味では、今後、日本がFOIPにおける中国の位置づけを「競争」とするか、あるいは「協調」(あるいは「共強」)にするかで、同構想の価値は変わってくるものと思われる。今後、日本はFOIPを一つの切り口に、新たな外交の選択を迫られるものと思われる。その際、FOIPはつねにユーラシア外交の対抗的意味解釈ではなく、結束的意味解釈となるべく、双方の位置づけを早急に確定させる必要がある。

ユーラシア・ダイナミズムと日本

渡邊啓貴 監修/公益財団法人 日本国際フォーラム 編

日本外交の新地平を切り拓くためには何が必要か。ウクライナ戦争、アメリカのアフガニスタン撤退、中国の一帯一路。影響圏拡大をめぐって大国がせめぎ合うユーラシア。劇的に変化する国際環境の中で日本が採るべき道とは。第一線で活躍する有識者が日本外交の課題を論じる。

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高畑洋平
1983年生まれ。日本国際フォーラム上席研究員、グローバル・フォーラム世話人・事務局長。早稲田大学大学院修了。2009年日本国際フォーラムに入所後、「e-論壇」編集主幹、グローバル・フォーラム常任世話人、日本国際フォーラム主任研究員などを歴任し、2022年より現職。現在、広報戦略主幹・理事長補佐を兼任。主な業績として、共著『各種の中長期的国際情勢予測に関する研究報告書』(日本国際フォーラム、2010年)がある。
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