西村 晋 徹底した封鎖管理を可能とした中国の「基層」を読み解く 末端を支える自治組織と中共党員

西村 晋(文化学園大学語学研究室准教授)
 徹底的なコロナ対策を行う中国。なぜ、そのようなことができるのか、『中国共産党 世界最強の組織』で注目を集める西村晋さんが論じます。
(『中央公論』2022年8月号より抜粋)

 今年3月末から5月末までの上海(シャンハイ)市が典型だが、中国は依然として大規模な移動制限を伴うコロナ対策を続けている。同市では、緊急事態宣言中の日本よりもはるかに厳格な封鎖管理が実施された。たとえ食料品・日用品の買い物であろうとも、区画(後述する小区)外に出ることは厳しく制限された。

 筆者は公衆衛生学やウイルス「封じ込め」あるいは「対コロナ戦争」には全く関心がない。日本でも一時期流行した概念とはいえ、微生物と人類との間で「戦争」をするなど、喩えにしても馬鹿げた話である。ただし、中国のコロナ対策を通じて、中国社会の末端とも言うべき「基層」を治める複数のアクターを観察できることは興味深い。

 日本では、中国のゼロコロナ政策の是非ばかりが注目されがちだ。しかし、政府がいかに強権を持とうが、実際に人々の往来を管理・監督する労力を割き、また決まりを破らないよう住民を教導・説得する手間をかける存在がいなければ、実効力を伴う移動制限など不可能である。

 なにより、2ヵ月間も買い物ができなければ住民は餓死してしまうため、必要な時までに必要な量の食料や生活必需品を配給する必要がある。また、住民の外出を管理するためにも膨大な手間がかかる。

 方針や政策や戦略以上に重要なものは、組織化と段取りである。こうした面に注目してこそ中国社会を理解できる。この機会に中国社会の末端である「基層」を解説しておきたい。

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