西村 晋 徹底した封鎖管理を可能とした中国の「基層」を読み解く 末端を支える自治組織と中共党員

西村 晋(文化学園大学語学研究室准教授)

 社区と居民委員会

 中国の都市部の末端を理解する上でまず認識しておく必要があるのは、「社区」と「小区」である。

 行政区画を大きい順に並べると、市→区→街道→社区となる。自治体に相当する地方人民政府が設置されるのは、区までである。街道には街道弁事処と呼ばれる区政府の出先機関が設置される。これは、街道の住民に行政サービスを提供するための単なる事務所である。

 街道よりも下に設置される区画が社区だ。ただし、これを適切に日本語に訳した用語がない。あえて訳すならば、「地域コミュニティ」ということになる。1000世帯程度の比較的小さな社区から、大きなものでは5000世帯以上の社区まで存在するため、規模はまちまちである。

 典型的な社区は複数のマンション群(小区)で構成される。小区は「団地」と訳されることが多いものの、現代中国の典型的な小区はゲートと壁に囲まれたマンション群(○○苑や○○花園のような名称)である。

 警備員を配置したゲート内に、庭園や駐車場を備えた数棟~数十棟のマンションが並ぶものが典型的な小区である。小区はディベロッパー(昨年話題になった恒大(こうだい)集団のような)の都合で計画・開発されたものであるから行政区画ではない。

 ただし、コロナ対策に際しては、感染者が増えた場合は小区全体が封鎖され、小区をまたいだ移動が禁止される。もともとゲートや壁によって区切られている区画であるため、移動が制限しやすいからである。社区や小区の境界が壁や柵によって隔てられていない場合、後述する居民委員会によって鉄板などで即席の壁が設置されるケースも見られた。

 社区には住民に公共サービスを提供するための居民委員会(以下、居委会)と呼ばれる自治組織が設置される。封鎖管理中の上海に滞在していた邦人の中には、居委会を政府機関と誤解した人が少なくなかったようだ。しかし、一般的な中国人、少なくとも普通に教育を受けた層であれば、居委会が行政機関ではなく自治組織であることを弁(わきま)えている。

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