小山 堅×渡部恒雄 ウクライナ侵攻による世界規模のエネルギー危機。勝者、敗者は誰?

小山 堅(日本エネルギー経済研究所首席研究員)×渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)

台頭する中国の弱点

小山 今回の戦争で長期的にはロシアが敗者になるとすれば、勝者はいるのでしょうか。いるとすれば誰だと思いますか?


渡部 エネルギーで考えれば、意外に中国は勝者と言えるかもしれません。ロシアと組むことで、米国と戦うときにエネルギー供給源を確保できるし、十分な核兵器を持つ仲間を得ることにもなります。

 とはいえ、プライドの高いロシアは、中国のジュニアパートナーにはなりたくないでしょう。中国もロシアのことをそれほど信頼していない。つまり中露が安定的な友好関係になることは難しく、中国も全面的な勝者とは言えません。だいたい中国にとっても侵攻は想定外でした。その前に中露は「両国の友情に限界はない」という共同声明を発表していますが、習近平はプーチンに利用されたという感覚があると思います。9月の中露首脳会談で、習近平はウクライナ危機についての懸念をプーチンに伝えたようです。中国も米国の二次制裁は怖いですから、対露軍事支援には慎重です。


小山 確かに、中国は米国を意識して慎重に動いている印象があります。彼らは独自にエネルギー転換を進め、再生可能エネルギーのシステムを世界中に売り込もうとしています。ところが米中対立で、中国に依存することは危険だという認識が世界に広がりました。さらにロシアのウクライナ侵攻で、中国への警戒感がますます大きくなった。これは中国にとって想定外でしょう。だから慎重にならざるを得ないのです。

 中国のエネルギー自給率は85%程度。この数字だけ見れば十分に高いのですが、それはエネルギーの大多数を占める石炭を自給できるから。約2割を占める石油については7割超が輸入で、その多くを中東に依存しています。彼らはこれをエネルギー安全保障上の弱点と認識していて、輸入元の多様化のためにロシアとの関係を維持しようとしているのです。

 ちなみに中国国内のシェールガスの埋蔵量は世界一とされていますが、米国のようにシェール革命を起こすことは難しいでしょう。米国が成功したのは、網目のように発達したパイプラインや起業家精神に富んだ多数の開発企業の存在、地下資源が土地所有者に帰属することなど、米国固有の原因によるところが大です。


渡部 ロシアは比較的単純に、軍事的に過去の失地回復ができればいいと考えているように見えます。しかし中国は、米国とのシビアな競争に勝つために戦略的に動いています。我々としては、やはり中国を注視しておいたほうがいいですね。


小山 それともう一点、中国の場合は国内の経済と社会が安定するのかという懸念もある。これにもさまざまな意見がありますが、山積している課題をどう乗り越えるのか、習近平体制の真価が問われると思います。

(続きは『中央公論』2022年11月号で)


構成:島田栄昭

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小山 堅(日本エネルギー経済研究所首席研究員)×渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員)
◆小山 堅〔こやまけん〕
1959年長野県生まれ。早稲田大学大学院経済学修士課程修了後、日本エネルギー経済研究所入所。2020年より現職。PhD(英ダンディ大学)。専門は国際石油・エネルギー情勢、エネルギー安全保障。経済産業省総合資源エネルギー調査会をはじめとする各種委員会委員も務める。『エネルギーの地政学』など著書多数。

◆渡部恒雄〔わたなべつねお〕
1963年福島県生まれ。東北大学歯学部卒業。米国ニュースクール大学政治学修士課程修了。専門は日米の政治外交および国際安全保障。CSIS(戦略国際問題研究所)上級研究員、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員等を経て2017年より現職。『2021年以後の世界秩序──国際情勢を読む20のアングル』など著書多数。
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