西村健佑 ドイツのエネルギー自立が意味するものは?――戦争により急変しつつある事態
省エネの停滞
エネルギー安全保障にとっては、資源や調達先の多様化とともに消費削減が重要である。しかしエネルギー転換の本命の省エネが独で成功したとは言い難い。独の目標は一次エネルギー消費を2050年までに08年比で50%削減することであり、これを1990年比に直すと52%になる。ただ90年からの30年間に及ぶ結果は一次エネルギー消費20%減(再エネを除く化石燃料と原発に限れば33%減)、石油22%減、ガス36%増であり、今後32%の削減が必要だ。
CO2排出削減を考えれば、石油や石炭からガスへの代替には意味がある。とはいえ目標達成のためにはガス削減も進めなければならないが、果たして可能なのだろうか。
ガス消費量をセクター別で見た場合、製造業を中心に産業が36%で、最も多い。次いで家庭30%、民生部門と電力が各12%であり、電力の比率は高くない。またBDEW(ドイツ連邦エネルギー・水道事業連盟)によれば、産業のエネルギー消費の75%はプロセス熱や冷熱、家庭では95%が暖房と給湯に用いられ、一次エネルギーの58%(1兆3440億kWh〔キロワット時〕)が熱として消費される。そのため、ガス削減を含む省エネは暖房から始めるべきだった。
しかし19年の暖房用エネルギー消費量は8650億kWhで、00年代後半のピークからほぼ減っていない。また熱源の再エネ化も13年までに木チップやペレットボイラーの伸びとともに14・0%まで増えたが、その後は20年に15・6%と停滞した。
独には古い建物が多く、1979年以前に建てられた住宅は全体の67%、集合住宅では85%になる。古い建物は壁や窓が薄く、冬に大量の暖房用エネルギーを消費する。これらの建物を改修して断熱性を最新の義務水準にまで高められれば、暖房用エネルギーを80%近く、2000年基準でも半分以下に削減できる。本来、独の気候目標達成に必要な改修率は00年から年2%だったが、実際に改修したのは1%だった。また住宅の半数はガス暖房であり、加えて20年以上使用している暖房機器が40%と、非効率な状況にある。
そこで政府は7月に中長期の対策として省エネ改修と暖房の更新の重点化を掲げ、省エネ改修補助金を20年の50億ユーロ、21年の80億ユーロから130億~140億ユーロへと引き上げた。また30年までに効率の良いヒートポンプを600万台普及させることも盛り込んだ。独に限らず欧州では、エネルギー安全保障にとって建物の性能強化が必須だということが共有された。