林成蔚 加藤洋一 台湾不在の台湾有事論

林成蔚(財団法人國防安全研究院執行長) 加藤洋一(同研究院客員研究員)

武力行使のシナリオ

 台湾への武力行使の可能性が高まるにしたがって、米台の専門家の間では台湾防衛に関する議論が盛んになっている。論点は主に、武力行使のシナリオと、何が最も有効な防衛戦略なのか、という2点に収斂する。

 まず、中国による武力行使のシナリオについては、①台湾の封鎖、②着上陸侵攻の二つに分けられる。前者は、台湾周辺海域の制海権、および台湾本島上空を含む周辺空域の制空権を中国が奪取し、台湾本島へのあらゆるアクセスを遮断。それによって、台湾を降伏に追い込もうというものだ。一方、後者は、第一段階として弾道ミサイルと長距離自走式ロケット弾による統合火力打撃で台湾の軍事、政治、交通などの重要インフラを破壊、台湾の政治的中枢機能や国軍の指揮統制機能を麻痺させる。第二段階として、陸上部隊の上陸作戦と占領という計画だ。

 封鎖を防ぎ、突破するには、戦闘機や各種艦艇など伝統的な兵器、装備が必要となる。一方、統合火力打撃および着上陸侵攻に有効に対処するには、スマート機雷、短距離対艦ミサイル、短距離防空戦力など、いわゆる「非対称戦力」が求められる。それに加えて、電力供給網、各種通信網の強靭性(resilience)を高めることも必要だ。非対称戦を重視するのは、台湾の国防予算が中国よりはるかに少ないからだ。制約の中でいかにして有効な資源配分を行い、侵攻を遅らせ、防ぐかという発想だ。

 以上の二つのシナリオに加えて、近年の中国は、平時でも有事でもない、いわゆる「グレーゾーン事態」を引き起こす活動を頻繁に行うようになっている。台湾周辺では正規軍ではない海上民兵による資源の乱獲がみられており、島嶼の包囲などの活動も想定される。直接的な軍事脅威ではないものの、放置すれば国家の安全と統治が侵食され、結果として中国の支配を許すことにつながる。

 どのシナリオにせよ、ロシアの侵略を受けたウクライナに対し、国際社会がさまざまな支援を行っているように、台湾にも各国からの支援があれば、中国の侵攻を困難にしたり、遅らせたりすることが可能だ。封鎖による消耗戦であれば、石油・天然ガスなどのエネルギー資源、必要最低限の民生品の供給が欠かせない支援となる。さらに戦時備蓄弾薬の提供も受けられれば、台湾はかなり長期にわたって耐えることができる。潜水艦の脅威への対応も重要だ。中国の潜水艦は、海路による台湾支援を脅かすことになる。中国の「A2/AD」(接近阻止/領域拒否)作戦に打ち勝つためには、中国の潜水艦に関する情報共有などの支援が、ぜひとも必要だ。

 また、弾薬の備蓄や重要攻撃目標に関する情報の共有は、封鎖戦、統合火力打撃/着上陸侵攻のいずれの場合も、極めて重要だ。

 中国にとっての台湾侵攻のコストをより大きくすることができれば、戦争を有利に運べるようになる。それは、戦争の抑止にもつながることを国際社会はよく理解し、積極的に台湾支援に取り組むべきだ。ルールに基づく秩序の維持は、台湾のためだけではなく、国際社会全体の利益に通じるからだ。

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